研究課題/領域番号 |
26650100
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
相田 光宏 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 准教授 (90311787)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞接着 / 細胞壁 / ペクチン / クチクラ / 表皮細胞 / 転写因子 / ATML1 |
研究実績の概要 |
心皮の接着時における表皮細胞の性質の変化を明らかにするため、表皮の運命決定を支配する転写因子ATML1の発現解析を行った。ATML1の転写活性およびタンパク質の蓄積をモニターする二種類のレポーター遺伝子を含む形質転換体を用い、それぞれの植物体から切除した雌しべを寒天で包埋して観察を行ったところ、いずれの場合でも良好な蛍光画像が得られた。雌しべの接触部と非接触部でシグナルを比較したところ、転写活性のレポーターではシグナルに違いは見られなかったが、タンパク質の蓄積レベルをモニターするレポーターでは、接触部でのシグナルが有意に低下することが分かった。また、ATML1のターゲット遺伝子であるPDF1の発現を解析したところ、やはり接触部で発現が低下することが分かった。以上から、心皮の接着には転写因子ATML1の発現低下が伴うことが明らかになった。 さらに接触部位の微細構造と細胞壁の組成についても解析を行った。組織切片を作製して電子線トモグラフィー解析を行ったところ、接触部の細胞表面にはクチクラ様の構造と中葉に類似した構造がともに観察された。クチクラの染色剤であるオーラミンを用いた染色から、接触部にクチクラが存在することが支持された。一般にクチクラは表皮細胞どうしの接着を防ぐ役割を持つことから、心皮の接着にはクチクラの消失または変成が伴う可能性が示唆された。一方、中葉は隣り合う細胞の間に存在するペクチンに富んだ構造で、細胞どうしの接着を促進すると考えられている。そこで、ペクチンを特異的に認識する二種のモノクローナル抗体を用いて免疫染色行ったところ、いずれの抗体でも接触面においてシグナルが観察された。このことは、心皮の接着においてもペクチンを介した細胞接着が関与する可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた臨界点乾燥法による心皮接着判定法(くっつきアッセイ)の確立に関しては、計画策定当初は想定していなかったアーティファクトが判明したため、この方法では判定できないことが分かった。そこで、実験計画を変更して、接着部位の細胞壁組成の解析を行うことで、心皮接着に伴う細胞の性質変化を明らかにする実験を進めることにした。その結果、表皮細胞特異的遺伝子の発現パターンおよび細胞壁の特徴が明らかとなり、期待以上の進展が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は接着の分子メカニズムを明らかにするため、クチクラやペクチンに関連した突然変異体の表現型解析を行う。また、接着に関わる分子を同定するために、遺伝学的スクリーニングや、接着部位と非接着部位のトランスクリプトームを比較する研究も重要だと考えられる。さらに、接着が起こらない突然変異体について、表皮細胞表面のATML1発現解析、細胞表面の微細構造の解析、細胞壁成分の解析を行うことも有効であろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
臨界点乾燥法による心皮接着判定法の確立を進めていたが、実験計画を作成した当初は想定していなかったアーティファクトが判明したため、この方法では接着が判定できないことがわかった。そこで計画を変更し、接着部位の細胞壁組成と遺伝子発現の解析を行うことで、心皮接着に伴う細胞の性質変化を明らかにする実験を進めることにした。これにより、研究遂行に想定以上に時間がかかった。
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次年度使用額の使用計画 |
追加実験(微細構造の解析・突然変態の表現型解析)のための試薬と消耗品、植物育成用の消耗品、学会発表の旅費、論文投稿料として使用する。
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