心皮は被子植物に特有の生殖器官であり、これらが互いに合着することで袋状に閉じた一本の雌しべが形成される。本研究では心皮合着の制御機構を明らかにすることを目的として、シロイヌナズナのライブイメージング技術・レーザーアブレーションによる細胞間相互作用解析・心皮合着のアッセイ系の確立を目指した。 ライブイメージング技術の確立のため、表皮細胞特異的マーカー遺伝子であるATML1-GFPを用いて、多光子レーザー顕微鏡Leica SP5を用いて観察を行った結果、心皮接触部の良好な蛍光画像を得ることに成功した。そして心皮の接触に伴って、表皮特異的なATML1の発現がタンパク質レベルで減少することを明らかにすることができた。 次に臨界点乾燥法と走査型電子顕微鏡を組み合わせることにより心皮表面の接着の程度を評価する「くっつきアッセイ法」の確立を試みたが、表面の細胞壁の接着の有無に関わらずに引っ張り構造が観察されることが明らかになり、この方法では接着の評価が困難であることが分かった。そこで方針を変更し、走査透過型顕微鏡(STEM)と電子線トモグラフィーを組み合わせた方法による接着部位の微細構造の解析を行ったところ、心皮の接触部位における細胞壁表面には接着を防ぐクチクラと、接着を促進するペクチンの両方が存在することが示唆された。これらの成分の存在は、特異的抗体を用いた免疫染色法および組織染色剤により指示された。以上から、心皮の接着に関わることが予想される細胞壁成分を明らかにすることができた。 今後は表皮特異的転写因子ATML1の活性や、クチクラおよびペクチンの蓄積を人為的に操作することで、心皮接着過程におけるこれらの因子の役割を明らかにできると期待する。
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