シロイヌナズナやトマトなどでは、乾燥ストレスによって発現誘導されるヒストンH1変種が知られている。これらのヒストンH1変種は、乾燥ストレスに応答した植物ホルモンABAや転写因子を介する遺伝子発現制御に関わると推定されている。そこで本研究は、テッポウユリ花粉内の雄原細胞核に極めて豊富に存在するリンカーヒストンH1の変種(gH1)の乾燥耐性付与効果を調査するために、gH1をGFPとともに遺伝子導入した形質転換タバコ、形質転換シロイヌナズナならびに形質転換イネを作成し、いずれも野生株やGFPのみ導入したものを対照として、それらの形態学的、生理学的性状を比較した。 その結果、いずれの形質転換植物体も強いGFPシグナルが体細胞核から得られ、導入したテッポウユリのリンカーヒストンH1がタバコ、シロイヌナズナ、イネのクロマチン成分として使用されていることが確認された。しかしながら、形質転換シロイヌナズナや形質転換イネにおいては、顕著な乾燥耐性獲得は認められなかった。他のストレス耐性についても同様で、テッポウユリのリンカーヒストンH1は他種の植物においては何の影響も無いと判断された。一方、形質転換タバコにおいては、形質転換体ごとに大きな違いがあり、シロイヌナズナやイネと同様まったく影響の認められない場合と明らかに乾燥耐性が付与される場合があった。ところが、強い乾燥耐性が付与された個体においても、その後代ではそれが消失する場合もあった。その原因は不明であるが、エピジェネティックな制御が関与する可能性も考えられる。
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