研究課題
シロイヌナズナのキチン受容体CERK1のキナーゼドメインは、自己リン酸化を介して下流の免疫応答を制御していることが知られている。一方、われわれはこのキナーゼドメインにわずか3アミノ酸配列(YAQ)を導入することによって、下流のシグナル伝達経路を共生シグナル伝達系に変換できることを示している(Nagagawa et al., 2011)。本研究ではこうしたシグナル伝達系の変換がどのようにして可能になったかを明らかにすることを目指している。本年度においては大腸菌で発現したCERK1キナーゼドメインおよびそれにYAQ配列を導入したものを用いて、この配列の導入が自己リン酸化部位の変化に結び付いているかを検討した。その結果、意外なことに自己リン酸化部位には有意な変化が認められなかった。このことは、YAQ配列の導入が自己リン酸化部位の変化を通じて下流の応答に影響しているのではなく、この配列の導入による構造変化そのものが下流の応答の切り替えにつながっていることを示唆している。実際に、YAQ配列の挿入部位をCERK1細胞内ドメインの分子モデリングにより検討した結果、この配列がキナーゼの基質認識部位近傍に位置することを示唆する結果が得られた。また、自己リン酸化部位特異的変異を導入した形質転換体やin vitroリン酸化実験などによる解析から、自己リン酸化部位の中には下流のシグナル伝達系因子との相互作用に影響する部位があることも示唆されている。今後、こうした点も踏まえながら、YAQ導入によるキナーゼドメインの構造変化と下流のシグナル伝達系制御の関連についてさらに検討していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
YAQ配列導入による下流の応答の制御は自己リン酸化部位の変化ではなく、キナーゼドメインの構造変化に起因することを示唆する結果を得ており、今後の研究の焦点が絞られてきた。また、本課題に関連する重要な論文を発表した。
YAQ配列の導入によるCERK1キナーゼドメインの構造変化を明らかにするため、異種発現系による大量発現と結晶化、構造解析を目指す。CERK1がリン酸化する共生関連シグナル伝達系因子についても解析を進めたい。
初年度における自己リン酸化部位の解析とその機能解析は、学内共同研究の利用やこれまでに確立したシステムの利用により、大きな支出を伴わなかった。一方、結晶化を目指した異種発現系による目的タンパク質の大量発現に関しては、コドンを合わせた人工遺伝子合成などの高額支出が次年度になったため、この面でも支出が抑えられた。予算的には2年度目に比重を置いた支出計画となる。
次年度においては目的タンパク質の大量発現と精製・結晶化に関して、特殊高額試薬や外注に関わる支出を計画している。また、関連する研究成果の学会発表、論文発表の経費を見込んでいる。
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Plant and Cell Physiology
巻: 55 ページ: 1859-1863
10.1093/pcp/pcu129