研究課題/領域番号 |
26650107
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
川上 良介 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (40508818)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ベクトルビーム / in vivoイメージング / 自己治癒効果 |
研究実績の概要 |
本研究はin vivo2光子顕微鏡法で観察できない「太い血管の裏」を、励起レーザーの位相と偏光を調整したベクトルビームを用いることで、高精細な蛍光イメージングを達成することを目的としている。液晶デバイスは設定電圧により可視から近赤外までの波長の位相と変更を変更できる素子であり、通常の直線偏光から12分割液晶素子を通すことで径偏光化が可能である。H26年度において、この液晶素子デバイスのレーザー顕微鏡への導入を試みた。始めにNikon製顕微鏡A1R MP+に液晶デバイスを取り付ける治具の試作設計を行い、対物下において直線偏光を径偏光化し、対物レンズ後のレーザーの偏光の変換が確認された。また、液晶デバイスの利点である波長特性について、可視光および近赤外光のベクトルビーム化を試みた結果、ほぼすべての波長においてベクトルビーム化できることが実証された。 一方、マウス生体脳内におけるレーザーの集光スポットを可視化することを試みた。脳構造との関連を評価する為、一部の神経細胞のEYFPを発現するH-Lineマウスを用い、100~500nmの蛍光ビーズを微小ガラス管により油圧シリンジポンプを用いて生体脳へ埋め込み、Open Skull法を用いて観察用窓を作成した。この蛍光ビーズの3Dイメージを取得することで、生体脳内での集光状態を評価した結果、生体脳深部と表層では異なる光学特性を示す可能性が考えられた。一方で、マウス生体脳の深部においては微小蛍光ビーズでは蛍光強度が低く、イメージングが困難であることが明らかになった。本成果について、国際シンポジウムでポスター発表し、優秀ポスター賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度における達成度はおおむね順調に進展している。提案した研究計画において、1)ベクトルビーム生成のための液晶デバイスの導入について、概ね予定通りの成果を得ることができた。また、2)生体脳における集光特性の評価系の立ち上げを行い、マウス生体脳への蛍光ビーズ観察のための基礎技術を確立した。その結果、蛍光ビーズ像の解析により生体脳の光学特性の一端を明らかにし、ベクトルビーム化における生体脳観察の基礎DATAを取得することができたことから、おおよそ計画通りの成果が得られていると判断した。一方で、径偏光化した励起光での生体脳深部イメージングの成果を得ることができなかった。これは、蛍光ビーズの明るさに問題があり、径の小さい蛍光ビーズでは径偏光化した場合に解析に十分なシグナル強度が得られにくいことが明らかになり、生体脳深部での効果を明らかにするためには新たな蛍光ビーズの選定を実施する必要があったことが計画の遅れを引き起こした要因である。現在、量子ドット等を候補に様々な蛍光ビーズを用いて検証している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は継続としてより輝度の高い生体脳埋め込みビーズの選定を実施し、ベクトルビームの効果をマウス生体脳深部において評価する。また、1光子励起レーザーをベクトルビーム化し、固定脳スライスにおける解像度の向上を試みる。これはベクトルビームの自己治癒効果が固定脳の様な非常に強い散乱を持つサンプルに対して有効か否かを評価することを目的とする。これまでの予備検討で、散乱の強い生体脳組織ではZ方向の分解能が向上する可能性が示されている。固定脳においてはその散乱の強さや屈折率差による収差のため、表面から数十マイクロメートルの深部ではイメージ像がぼやけてしまう。そこで、固定脳スライスにおいて共焦点顕微鏡法に対するベクトルビームの効果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ベクトルビーム化した場合、蛍光強度が減少することは数値計算上明らかであり、より輝度の高い蛍光ビーズが必要である。本年度において計画していた生体脳への蛍光ビーズの使用量が想定よりも少量であったことが、使用額の減少につながった。一方で、量子ドットを中心核とした蛍光ビーズや量子ドットそのものを脳内に埋め込む必要が発生し、様々な製品を試用することが必須となったことが更なる減額につながった。
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次年度使用額の使用計画 |
使用計画として、次年度分の予算額と合わせ、現在多種の蛍光ビーズの選定を実施する。また、生体脳における集光特性評価系の確立は国際シンポジウムのポスター賞を受賞したことから、当研究をより推進し、得られた成果を国際学会において発表するために使用する計画である。
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