研究課題
本研究では、広塩性と狭塩性の違いを決定する因子を見出すことを目的とし、軟骨魚類では数少ない広塩性種であるオオメジロザメの腎臓の解析を進めている。複雑な腎ネフロンのうち、後部遠位尿細管は低塩分環境においてのみ特定のイオン輸送体を発現する。そこでこの後部遠位尿細管の機能を調節する因子を探している。1)非モデル生物である軟骨魚類は、リファレンスとなる大規模配列情報が存在しない。そこで、4個体のオオメジロザメ腎臓を用いてRNA-seqを行い、得られた配列をde novoアセンブリしてリファレンスコンティグセットを作成した。また、海水飼育と淡水飼育各2個体ずつの結果を比較し、サンプル間の発現量の違いを定量的に比較できることも確認した。2)特定のネフロン部位だけでRNA-seqを行うために、少量のRNAからでもオリジナルに近い発現プロファイルを維持したライブラリを作成できるQuartz-Seqプロトコルの改変を行った。以上の方法論の検討により、単離組織からのRNA-seqを行うための準備が整った。3)プロラクチンは、真骨魚類において淡水適応に重要なホルモンだが、これまで30年以上にわたる研究にもかかわらず軟骨魚類には見つからず、存在しないのではないかと考えられてきた。我々は本研究の過程で軟骨魚類にプロラクチン遺伝子が存在することを世界で初めて発見し、オオメジロザメの脳下垂体からプロラクチンならびにその受容体と考えられる遺伝子も見出した。本研究開始時には全く想定していなかった成果ではあるが、淡水環境において後部遠位尿細管の機能を調節する因子の候補を発見することができた。
2: おおむね順調に進展している
オオメジロザメ腎臓全体に発現する遺伝子のリファレンスコンティグセットの作成が完了し、少量の特定部位からRNA-seqを行った時にも、遺伝子の同定と発現量比較を行うための基礎となる情報を得ることができた。また、世界で初めてプロラクチンとその受容体を軟骨魚類で発見するという、当初の想定を上回る成果をあげることができた。プロラクチンが軟骨魚類の腎機能を調節する可能性が十分に考えられる。一方で、固定組織からのRNA調整については、さらなる検討が必要である。RNAの調整ならびに発現量の多い遺伝子の増幅が可能であることは示せたものの、定量性を維持したRNA-seqを行うレベルにはまだ達していない。様々なメーカーから出されているapplication tipsを参考にすること、さらにはサメの体内には高濃度の尿素が含まれているため、緩衝液や精製段階などの検討も行う。
当初の計画にしたがって研究を進めるとともに、世界で初めて軟骨魚類で発見したプロラクチンに注目した研究も行う。(1)固定・染色組織からのRNA抽出・精製方法の検討を進める。(2)イオンポンプやイオン輸送体を染色することにより、後部遠位尿細管や近位尿細管を判別し、採取する。集めた尿細管からRNAを抽出し、Quartz-Seqなどの手法により微量のRNAを元にしたRNA-seqを行い、発現量に差がある遺伝子を同定する。(3)海水個体と淡水個体の脳下垂体でプロラクチン分泌活性を比較する。(4)プロラクチン受容体のクローニングを行い、腎臓に発現しているのかどうか、もし発現しているとしたら腎ネフロンのどのような分節に存在するのかを明らかにする。
特定の尿細管分節から抽出した微量RNAを元にしたRNA-seqにおいて、オリジナルに近い発現プロファイルを維持したライブラリを作成できるQuartz-Seqプロトコルの改変を26年度は優先させた。また、固定・染色組織からのRNA抽出・精製方法の検討に時間がかかり、さらには理化学研究所におけるトラブルに対する検証データ解析への協力により分子配列比較解析ユニットでの作業にも遅れが生じた。以上の理由により、微量RNAからのRNA-seqを27年度に行うこととした。
27年1月からは分子配列比較解析ユニットも通常の研究体制を回復しており、リファレンスコンティグセットの作成やQuartz-seqプロトコルの改変もすでに済ませている。そこで、27年度の早い時期に微量RNAを元にしたRNA-seqを行う。
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 4件) 備考 (2件)
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