研究課題
生物は、多様な組織・細胞・細胞内小器官から構成される一つの複雑な社会である。個々の細胞や細胞内小器官のもつミクロな「個性」を分子レベルで理解するためには、顕微鏡で狙った細胞を選択的に試験管内に取り込む技術の開発が必須となる。本研究課題では、赤外線レーザーによって細胞を生きたまま操作することができる光ピンセットと、飛躍的な進歩を遂げているマイクロ流路を組み合わせることにより、新たなCell Sorting Tipの開発を目指す。具体的な対象としては、酵母様菌類クリプトコッカスにおけるミトコンドリア母性遺伝に注目する。クリプトコッカスは全体の5%程度しか接合子を形成しないが、その接合子における雌雄のmtDNAの挙動について、接合子を選択的に回収し分子解析することで、母性遺伝の分子機構に迫ることを目的とする。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、赤外線レーザーによって細胞を生きたまま操作することができる光ピンセットとマイクロ流路を組み合わせることにより、Cell Sorting Tipの開発を目指してきた。様々なデザインのマイクロ流体プレート、メディウムを検証した結果、ibidi社の開発したマイクロチャンバーが光ピンセット操作に最適であることが判明した。このチャンバーは底面が超薄プラスチックからなるマイクロチャンバーから構成されており、両端にメディウムを注入/除去できるアウトレットが付いている。この装置を用いると、安定に細胞を操作できるのみでなく、これまでのガラス底面のマイクロチャンバーに比べ、底面への細胞接着が最小限に抑えられるため、飛躍的に操作性が向上した。これとマイクロインジェクタを組み合わせれば、顕微鏡下で狙った数十個の細胞を選択的に回収することも可能となる。また、細胞の染色法についても、生きたままDNAを可視化する試薬Novel GreenがこれまでのSYBR Green Iに比べはるかに安定であることが判明した。これらの技術を用い、テストケースとしてクリプトコッカスの母性遺伝について解析を行ったところ、片親のミトコンドリアが分解され、母性遺伝が引き起こされる様子を1細胞解析によって明らかにすることができた。ただし、論文についてまだ発表に至っておらず、やむをえず研究機関の延長を申請した。
セルソーティングチャンバーについては、早く論文として発表することで、その有用性をアピールしていく。その一方、光ピンセットで集めた細胞をチャンバーから回収する方法については、もうすこし改善/簡便化する必要があると考えている。母性遺伝の分子機構の研究については、クリプトコッカスで明らかになってきたミトコンドリア核様体の重要性について真核生物全体での普遍性を検証するため、メダカやマウスなどについて研究を進めたい。その際には、適切な共同研究者を探すことで、できるだけ効率的に成果に結びつけたい。
本研究は光ピンセットとマイクロ流路を融合させたセルソーティングチップの開発、およびその技術を基盤とした母性遺伝の分子機構解明を目的として進められてきた。マイクロチップの開発にはようやく成功し、樹脂製のマイクロチャンバーを用いることで良好な結果を得たが、それを基盤とした実験を行って結果まで結びつけることは挑戦性の高い課題であったため時間がかかってしまい、未だ論文発表には至っていない。そのため、論文の投稿、再実験のためにどうしても次年度まで研究費の使用を延長することが必要となった。
次年度に使用する研究費は、今回の研究の成果に関する論文の英文校閲、投稿、およびレビュアーに要求された再実験および追加実験を行うのに使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (9件) 備考 (1件)
G3
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