抗体の抗原に対する高親和性は、抗体遺伝子上に起こる体細胞高頻度突然変異(SHM)によって向上する。本研究では、RNAスプライシング因子SRSF1のアイソフォーム(SRSF1-3)がSHMに関与する分子機構を明らかにする。 SHMの鍵因子であるAID、およびSRSF1-3を、それぞれ、GFP、mCherryとの融合タンパクとして発現させるためのベクターを作製し、マウス線維芽細胞NIH3T3へ導入し、一過性発現系での各因子の局在性の関係について検討した。AIDは核で作用すると考えられているにもかかわらず、AIDタンパク質のほとんどは細胞質に存在する。本実験系でも、AID単独の導入では細胞質への局在が確認された。SRSF1が核への移行する際、RSドメインのリン酸化を必要とするが、RSドメインを有しないSRSF1-3はこの系では核に局在した。興味深いことに、AIDとSRSF1-3を共発現させると核に局在化した。すなわち、SRSF1-3は、AIDの核局在における役割があることが示唆された。 一方、DT40細胞での安定形質転換体では、SRSF1-3の存在にもかかわらずAID融合タンパク質は細胞質に局在したことから、定常状態でAIDを細胞質に局在させるフィードバック機構の存在が示唆された。また、レプトマイシン処理によってAIDの核外輸送を阻害すると、SRSF1-3を発現しないDT40細胞でもAIDの核への輸送が確認された。さらに、野生型のAIDを発現するDT40細胞では、SRSF1-3の過剰発現はSHMを増強したのに対して、核外輸送シグナルを欠損したAIDを発現するDT40細胞ではSRSF1-3の過剰発現の効果が見られなかったことから、SRSF1-3の機能とAIDの核外排出の制御に関連があることが考えられる。これらの結果から、SRSF1-3はAIDの核外排出の制御に寄与していることが示唆された。
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