研究課題/領域番号 |
26650128
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
沓名 伸介 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 准教授 (30315824)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 概日時計 / シロイヌナズナ / 花弁 |
研究実績の概要 |
本研究成果で最も興味深い点は、花弁運動変異が、芽生えよりも花で強い影響が現れることがわかったことである。すなわち、このことは、これまでの概日研究において、動植物で広く認められつつある、「すべての細胞で概日時計が働いていること」に関する結果である。さまざまな器官を構成する細胞はそれぞれ特異な遺伝子が発現しており、近傍の遺伝子はエピゲノム的に発現が左右されざるを得ないだろう。概日時計遺伝子についてもそれが当てはまると考えている。投稿論文として準備中の知見だが、芽生えという発生上基本となる構造で生まれた概日時計が、花という生殖器官でも少なくとも4つの遺伝子についてはほぼ同じ概日機能が保持されている。その後、そのためには、おそらく発生進化上新規の転写因子がそれらを強める必要があったと考えられるような結果を得た。そこで以下に述べる結果によって、概日研究の謎である、多細胞における概日時計の発生をエピゲノムの文脈で提案できるだろう。 研究開始時点において3つの花弁運動突然変異体が得られていた。また、それらの花において、概日時計遺伝子発現リズムが異常であることを詳細に理解することができた。具体的には、4つの最重要時計遺伝子(CCA1など)の発現が、顕著な抑制を見せることがわかった。花弁運動が停止するのは、概日時計遺伝子のリズムの欠損であることが示唆された。 次に問題となるのは、これらの変異が既知の芽生えの概日リズム変異とどのような関係にあるのかを明らかにすることである。そこで、ycu変異体の芽生えの遺伝子発現リズムを調べたところ、発現リズムの強さが、影響をあまり受けないものと、すこし受けているもの、そして、顕著なものに分類できた。さらにこれら相互の相補試験によって、別の遺伝子座にあることが判明した。そのひとつはメンデル遺伝にしたがう劣勢対立遺伝子であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3つの変異体のうち、ひとつに研究資源を集中させて、原因遺伝子のマッピングをおこない、第3染色体の短腕にあることを確かめることができた。すくなくとも単一遺伝子の変異で劣勢であることがわかった。この領域に既知の時計遺伝子は、ひとつあるが、遺伝距離的、および表現型が異なるため別の遺伝子だとかんがえられる。次世代シーケンスによって変異部位を多数確認した。さらに、それらのうちコードタンパク質の質的、量的に影響するものが20個程度あることが解析の結果わかった。TAIRのT-DNA挿入株を入手し、その花弁運動を調べている。これらと平行してファインマッピングを実施中である。この表現型が、概日時計と発生を結びつけるものであることが示唆されつつあるため、植物発生のエピゲノム研究者との共同研究を考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ファインマッピング 原因遺伝子の同定のため、交雑集団F2を20-30株を使ってファインマッピングをおこなう。次世代シーケンスの結果、ycu1ゲノムにはSNPとして利用できそうな変異が当該ゲノム領域にあることがわかったので、Co-0との交雑だけでなく、Ler-0との交雑集団でもファインマッピングしてみる。 過剰発現株 変異の原因遺伝子候補が特定できたら定法にしたがい過剰発現株を作成して花弁運動と概日リズムを測定する。 TAIR T-DNA挿入株 定法に従い、当該遺伝子のT-DNA挿入株をとりよせ、花弁運動を確認する。 生物発光レポーター株の作出 概日リズムの詳細な変異を調べるために生物発光レポーターを作成して、周期、持続性をしらべる。 変異体のクローニング方法としての論文を原著論文として投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
3つの変異体のうち、ひとつについて、ラフマッピングとゲノムシーケンスが実施できた。しかしあと2つについては手付かずであった。また予定していた原著論文のいくつかについて、間に合わなかった。また、一部は所属機関で負担が可能だったため、予期せぬ余裕がでた。
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次年度使用額の使用計画 |
ゲノムシーケンスをおこなうため委託費として使用する。原著論文投稿費として使用する。海外学会で発表する。
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