研究課題/領域番号 |
26650129
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
野瀬 俊明 慶應義塾大学, 医学部, 共同研究員 (70183902)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | non-coding RNA / 精子形成 |
研究実績の概要 |
マウスES細胞のin vitro生殖細胞分化を用いた特異的遺伝子探索によって検出されたSINE-B1型反復配列をコアに持つ非コードRNA, R53-RNAは、in situ解析によって精子形成の減数分裂M期染色体への極めて特異的な局在を示した。これによって、SINE配列由来RNA産物と減数分裂期染色体動態の間に何らかの機能的関連が示唆された。本研究は、この希有な発現特性を持つR53-RNAの解析から、SINE型配列由来産物が持つ新たな分子的・発生学的機能を明らかにすることを目的とする。
本年度は、幼若精巣断片の器官培養を用いて、R53-shDNAを組み込んだレンチウィルスを精細管へ顕微注入することによる機能的ノックダウン(KD)実験を行い、精子形成分化におけるR53-RNAの機能解析とその定量的評価を進めた。その結果、R53-RNA KDは器官培養後に起こる減数分裂から精子細胞への分化を阻害する効果を示し、精子細胞数の劇的な減少、及びその初期効果として精子細胞特異的遺伝子の異常な高発現が起こることが判明した。これはR53 KDによってクロマチンリモデリング因子の同期的制御が破綻し、精母細胞の分裂異常と精子細胞の減少をもたらしたと考えられ、R53-RNAの機能が減数分裂前期における精子細胞遺伝子群の抑制的制御に関与することを示唆する。現在これらの知見に基づいて、さらに分子的作用機序を究明すべく、細胞培養レベルでのR53-RNAの機能解析を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度予定の研究計画と実施成果は以下の通りである。 1. 器官培養を用いたR53-RNAのKD解析: shDNAレンチウィルス感染によるR53-RNA KDの予備的知見は、既にAcrosin-GFPマウスの幼若精巣を用いた器官培養を蛍光観察することによって得られていた。本年度は、組織学的解析に加え分子的解析を可能とするため、野生型マウス精巣を用いた複数回の再現実験と統計的に有意な試料作製を進めた。その結果、円形精子細胞分化に相当する培養開始後3週目において、R53 KD精巣断片において精子細胞数の顕著な減少が再現された。また、培養後4日目のRNA試料について定量的PCR解析を実施した結果、R53 KD精巣断片でR53-RNA発現の減少(類縁のB1D-RNAは変化なし)が確認される一方、対照群では低レベルに留まる精子核リモデリング遺伝子が異常な高発現するという想定外の変化が検出された。これは、R53-RNAの分子的機能を解明する上で重要な手掛かりとなる。 2. R53RNA局在部位の超微形態解析:M期染色体でのR53-RNA結合部位を電子顕微鏡レベルで特定する実験は、1) の遂行に集中するため延期とした。 3. 精子幹細胞株を用いたKD実験の構築:器官培養KD実験から推定されるR53-RNA機能を厳密に検証し、その分子機序の解明を図るには、均質な細胞レベルでの解析が必要となる。R53-RNA前駆体及びそのsiRNA強制発現遺伝子をES/EG細胞株に導入する予備実験を終了し、現在、精細管移植における組み換え体ドナー細胞の追跡/精製分離を可能にするため、Vasa-RFP/Oct4-GFPマウス精巣から精子幹細胞の樹立を進めている。 以上、想定外の知見が得られたことによる一部計画の延期もあったものの、本年度の進捗は概ね順調と考える。
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今後の研究の推進方策 |
On-Agar器官培養を用いた新たなR53-KD解析によって、精子形成の減数分裂期染色体に局在するSINE型R53-RNAが抑制的遺伝子発現制御に関わる可能性が示された。一方、マウスB1配列RNA群は互いに配列相同性が高い反復配列集団であることから、KD実験におけるOff-Target効果の混在を厳密に排除することは難しい。この難題克服も視野に入れた上で、精子幹細胞(SSC)を用いたR53-RNA KD実験の構築は、本研究目標の達成を図る上での最重要課題と考えられる。遺伝子操作SSC細胞は、数的制限のない均質な精子形成細胞を対象とする解析を可能とし、さらに生殖細胞欠損マウスの新生児精巣を宿主とした精細管移植とその器官培養を行うことによって、精子形成の全プロセスの進行度を可視的に追跡可能とするなど多くの優位性を持つ。このような精子形成に特化した新たな解析技術はsmall RNAに限らず、生殖細胞分化における幅広いエピジェネティック機能の解析に大きな進展をもたらすものと期待される。ただし本課題の場合、R53/siRNA発現によってSSC株の幹細胞能や発生分化能に変化が起こる可能性など、実験上の不確定要素も予測されるため、遂行に向けて重点的加速化を図りたい。
一方、次年度は本課題の最終年度となる。SIN-B1配列RNA産物が減数分裂M期染色体に作用し、特定の遺伝子発現抑制に機能するという知見は従来研究には見られない新たな small RNA機能を付加するものであり、関連研究分野に与える功績は小さくない。この研究上のPriorityを考慮した場合、現状の達成段階でも充分に論文発表に値すると考える。このため、次年度は研究推進と並行して、確証データの整備など論文発表のための作業を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度計画(3)で行う精子幹細胞を用いたR53機能解析には、精子幹細胞を長期培養する特異的な培養液が必要であり、その組成には高価な試薬が含まれる。本年度はその精子幹細胞への遺伝子導入から組換え体幹細胞の樹立段階までを見越した予算設定をしていたが、予備段階のES/EG細胞を用いた条件検討が長引いたため、細胞株樹立を遂行するには至らなかった。そのため、培養関連消耗品費に当該額の軽減が生まれた。しかしながら、これは本研究項目の遂行に必須の費用であり、研究継続するため、次年度使用額として繰り越す必要がある。
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次年度使用額の使用計画 |
上記、理由欄に記載した通り、当該の次年度使用額は、本年度から継続する精子幹細胞の組換え体選別やその長期培養の実施に必要とされる培養関連消耗品費として使用する。
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