本研究計画では、非対称な歯列をもつセダカヘビの胚発生を観察し、非対称な歯列の形成過程を詳らかにすることにより、脊椎動物一般における歯芽形成の位置決定を理解するための基盤整備を目指した。当該年度は、まず、冬季にクーリングを経験させることにより、飼育下のセダカヘビを春に交配させ、産ませた卵から胚を得るという手法の確立に成功した。これにより、実験に用いる胚を多数確保することが可能になった。しかしながら、剖検対象とする発生段階まで卵を生かしておくことに予想外の困難が伴い、セダカヘビの胚発生に関して得ることのできた成果は非常に限られた。いっぽう、コントロールとして用いた、歯列の左右対称なコーンスネークでは多数の胚を得ることができ、歯牙形成に関与する複数のマーカー遺伝子について、どの時期に下顎のどの位置で発現が見られるのかがin situ hybridizationによってほとんど完全に解明できた。これは、未だに確かな記載のない知見であるばかりでなく、セダカヘビを用いる本実験において、確認するべき時期とマーカー遺伝子を限定するために大きな助けとなる成果である。 また、台湾の一地点で集中的に実施してきたサンプリングによって得られた、共存する2種のセダカヘビの頭部CTを調査し、両者の歯列非対称性に大きな違いがあることをあきらかにした。さらに、この2種にはエサの選好性に違いがあり、非対称性の低い種はナメクジの専食者であることが行動実験により判明した。この結果は歯列非対称性とエサの特殊化に相関関係があることを示しており、セダカヘビ類に見られる歯列非対称性の種間・地域間変異を理解するうえで基礎となる仮説を実証するものと言える。調査に用いた標本のコレクションとそのCTデータは質が高く、今後さまざまな形態学的調査を実施していく予定である。
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