研究課題
本研究課題は、蛋白質の進化の過程で一度だけ生じた正の自然選択を検出できる方法を開発し、実際の配列解析への応用としてインフルエンザウイルス(IAV)のヘマグルチニン(HA)蛋白質におけるN-結合型糖鎖付加部位(NGS)数の変化に働いた自然選択を検出することを目的として遂行され、平成26年度には、系統樹において目的のアミノ酸置換よりも後の枝において逆向きのアミノ酸置換を生じさせる非同義置換速度と同義置換速度を統計的に比較することにより間接的に目的のアミノ酸置換に働いた自然選択を検出するという方法を開発した。平成27年度においては、実際の配列解析への応用としてH3N2亜型ヒトIAVのHAにおけるNGS 数の変化に働いた自然選択の検出を試みた。H3N2亜型ヒトIAVのHAにおいては進化の過程でNGS 数が増加してきたことが知られている。N-結合型糖鎖は実験的に抗体のHAへの結合を阻害することが示されているが一方でウイルスのシアル酸受容体への結合も阻害してしまうことが示されており、NGS 数の増加がどのような進化機構で生じてきたのかは不明である。そこで国際塩基配列データベースに登録されているH3N2亜型ヒトIAVのHAをコードする遺伝子の塩基配列を抽出して系統樹を作成し、系統樹の各内部結節における祖先配列を推定することによりNGS 数が増加した枝を同定した。そしてその後の枝においてNGS 数を増加させたアミノ酸置換と逆向きのアミノ酸置換を起こす非同義置換速度と同義置換速度を統計的に比較したところ、逆向きのアミノ酸置換に負の自然選択が検出された。これはH3N2亜型ヒトIAVはHAにN-結合型糖鎖を付加することにより免疫から逃避し続けていることを示唆しており、ウイルスの治療や予防を考える上で重要な知見である。本研究課題で得られた成果は、分子進化学的にもウイルス学的にも意義深い考えられる。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件)
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