本研究では、真核生物の緑藻クラミドモナスのもつ全2種類のアクチン(CrAとNAP)が、生命活動に必須かどうか、および両者の機能的差異について検討した。研究代表者らは以前に、CrA遺伝子の欠損株であるida5を単離しており、通常は発現しないNAPがこの株で高発現し、主要なアクチンの機能を代替することを見出している。 昨年度までに行った、amiRNA発現ベクターを用いたida5でのNAPの発現抑制実験により、CrAを欠損した状態でも通常の10%程度のNAPが存在すればクラミドモナスは生存可能だが、NAPをほぼ完全に欠失するとクラミドモナスの生育に重大な支障が生じることがわかった。またスタンフォード大学のグループによりNAPの欠損株が単離され、ida5との二重変異株の致死性が示された。これは本研究と矛盾のない結果であり、以上からクラミドモナスの生存においてどちらかのアクチンが必須であることが明確に示された。 今年度は、2つのアクチンの細胞内での重合状態の違いを調べ、その機能的意味を考察した。クラミドモナスの接合時に+型配偶子の前端から伸長する接合管の内部には、アクチンの繊維束が含まれる。接合管にはCrAとNAP がともに含まれ、両者が共重合していると考えられていた。ida5の配偶子前端にはNAPが蓄積するが、この状態では接合管は伸長しない。今回、繊維状アクチン結合性プローブLifeactを用いた観察により、ida5配偶子前端に蓄積したNAPが短い繊維状である可能性が示唆された。一方、NAP欠損株の配偶子は、通常あるいはそれ以上に長い接合管を伸長させることがわかった。よって、1)NAPは単独で重合能をもつが、その特性はCrAと異なる、2)CrA単独で接合管が伸長可能である、3)NAPは接合管伸長に対して抑制的にはたらく、以上の3点が判明した。
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