本研究は、高等植物が進化してきた過程において、ゲノム配列の情報がどのように変遷してきたのかをユニークな方法論(数億年後の子孫同士をゲノム的に“対面させる”)で、解明しようとするものである。我々の予備的な実験において、アブラナ科植物シロイヌナズナの染色体断片に含まれる約100kbpのDNA断片(10個前後の構造遺伝子を含む)を一億年前にアブラナ科の先祖と分かれたナス科トマトに導入したところ、導入してシロイヌナズナ遺伝子が特徴的に発現することを見つけていた。そこで、この方法論を高等植物の前の段階であるコケ類(4億年前に共通祖先が分かれたゼニゴケ)に用いて解析したのが本研究である。シロイヌナズナの染色体断片に含まれる約100kbpのDNA断片(12個の構造遺伝子を含む)を京都大学農学研究科の河内孝之教授の協力を得て、ゼニゴケに遺伝子導入した。遺伝子導入に際しては、光応答性遺伝子欠損ゼニゴケをホストとして用い、進化的にその遺伝子のホモログと考えられるシロイヌナズナ遺伝子を含む100kbpのDNA断片を導入した。シロイヌナズナのゲノムDNA断片を含むバイナリーベクターは、ゼニゴケでは選抜されにくいことがわかり、遺伝子導入効率が低かったが、何度もトライして複数の形質転換系統を得ることができた。導入された遺伝子を調べたところ、欠損しているものもみられたが全長が入ったものもあった。これらの系統の光応答性を調べたところ、回復しているものが見られた。また、遺伝子発現していることも判明した。これらの結果は、4億年前に共通祖先から分かれたシロイヌナズナのゲノムDNAは現在のゼニゴケが有している転写機構によって転写が可能であることを示している。今後、これらの配列を詳細に解析することによって、ゲノム配列の進化の様相が解明されると期待できる。
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