研究実績の概要 |
本研究では, 複数の植物種において樹齢100年以上の巨木を対象に, 樹形構造の分析, 同一個体内の葉と花組織をもとにした次世代シーケンサーを用いた大規模塩基配列情報の取得, 遺伝的距離と物理的距離の相関分析を進めることによって, 同一個体内に存在するゲノムの体細胞間変異を定量化し, 異なる体細胞分裂毎に蓄積された変異が次世代に伝わるかどうかを実証し, 体細胞変異に由来する多様性創出機構仮説を検証する. ゲノムの体細胞間変異は,世代時間の短いモデル生物では検出することが難しく見過ごされてきた現象である.本研究で対象とする,世代時間が長くかつ無限に分裂可能な細胞からなる樹木において,その存在を実証できれば,植物に特徴的な多様性創出機構の発見や,進化や種の概念の一般化に繋がる.北海道大学苫小牧研究林の林冠観測用クレーンシステムを利用して,樹高約20m,樹齢100年以上のミズナラとカエデを対象に,異なる枝位置から各3反復ずつ葉と花組織の採取を行った.また,ミズナラ倒木を利用し年輪から各組織の年代を推定することで、サンプル間の年代差を算出した.得られたサンプルから全DNAを抽出し,次世代シーケンサーを用いて大規模塩基配列を取得した結果,約1500遺伝子座において総数100,000塩基の配列情報を取得した.塩基置換が生じた配列を探索した結果,同一個体あたり最大2個の突然変異が検出された.突然変異が観察された位置を分析した結果,一度突然変異が生じるとそれはその後に形成された枝に引き継がれていることも確認されたため,同一個体であっても過去の成長履歴に依存してモザイク状のゲノム構成になっていることが示唆された.
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