研究課題
陸上植物の胞子体拡大進化をもたらした分子基盤解明のため、他のコケ植物と維管束植物の中間の胞子体形質を持つコケ植物ツノゴケの発生進化研究モデルの確立を目的とし、研究を進めてきた。(1)ツノゴケ複数種を比較したところ、Anthoceros agrestisが特にゲノムサイズが小さく (70 Mb程度)、無菌培養環境下で、数ヶ月で全生活環を観察でき、葉状体組織片から高頻度で再生体を形成させることができるなど、研究モデルとして適した性質を持っていることがわかった。今後、Anthoceros agrestisに焦点を絞って研究を進めて行くこととした。(2)再生中のAnthoceros agrestisの葉状体組織片にアグロバクテリウムを感染させる手法で、形質転換に成功した。現手法では形質転換効率が一実験あたり数個体と低く、来年度以降、感染条件の検討やプロモーターの改良など、条件の最適化を行なう。(3)セン類ヒメツリガネゴケで報告されている胞子体発生遺伝子、KNOX遺伝子、LFY遺伝子、WOX遺伝子のツノゴケAnthoceros agrestisオルソログを単離し、申請者らが開発した形質転換系を用いて、ツノゴケ胞子体発生における機能解析を進めている。現在までに、KNOX遺伝子のcDNA及びゲノム配列とプロモーター領域のクローニングを完了し、プロモーター解析による詳細な発現解析とRNA干渉によるノックダウン株の作出を進めている。(4)ツノゴケ胞子体特異的遺伝子を同定するため、Anthoceros agrestisの配偶体と胞子体の比較とランスクリプトーム解析を行っており、現在までに配偶体の葉状体と造精器のRNAシーケンスライブラリーを作成し、シーケンスを終了した。実験は榊原と学術振興会外国人特別研究員Eftychios Frangedakisとで実施した。
1: 当初の計画以上に進展している
次世代シーケンサーを用いた配偶体と胞子体の比較トランスクリプトーム解析は平成27年度から開始する予定であったが、研究実施場所の都合で培養器の購入を平成27年度とし、配偶体のRNAシーケンスライブラリーの作成とシーケンスを本年度に実施した。本件度途中から学術振興会外国人特別研究員Eftychios Frangedakisが研究に参加し、その協力により効率的に研究が進められるようになった。
来年度は胞子体のRNAシーケンスを実施し、本年度に作成した配偶体RNAシーケンス結果、及び申請者が別課題で作成したヒメツリガネゴケ胞子体RNAシーケンス結果と比較することでツノゴケ胞子体特異的遺伝子を同定する。そのため、胞子体のライブラリー作成とシーケンス試薬代を計上する。また、Anthoceros agrestisのゲノムは約70 Mbと小さいので、次世代シーケンサーPacBioを用いたゲノムシーケンスを実施することとし、そのための試薬代を計上する。ゲノムシーケンスが得られれば、今後、解析を進める胞子体発生遺伝子のプロモーター配列やゲノム配列が容易に得られるようになると期待される。本年度、形質転換系の確立に成功したので、この技術を使って、胞子体発生遺伝子の機能解析を行なう。そのため、平成27年度に本年度購入を見合わせた培養器を購入し、形質転換体の培養に使用する。
設置場所確保の関係から、本年度購入予定であった培養機の購入を見合わせ、平成27年度の購入することとしたため。
平成27年度にはツノゴケ形質転換体の培養用の培養機を購入する。
受賞、アウトリーチ活動など榊原恵子、日本進化学会奨励賞受賞 (日本進化学会)、2014年8月日本植物学会でシンポジウムを企画、2014年9月
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PLOS Genetics
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