研究課題/領域番号 |
26650143
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
榊原 恵子 金沢大学, 学際科学実験センター, 協力研究員 (90590000)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ツノゴケ / 陸上植物 / 胞子体進化 / 形質転換系 |
研究実績の概要 |
研究代表者は陸上植物の胞子体世代の拡大進化をもたらした分子基盤の解明のために、胞子体において一時的な分裂組織しか持たない他のコケ植物と永続的な分裂組織を持つ維管束植物との中間的な形質を持つコケ植物ツノゴケの発生進化研究モデルの確立を目的として研究を進めて来た。平成26年度までの研究実績により、ツノゴケ類の中でもAnthoceros agrestisがゲノムサイズが約70 Mbと小さく、実験環境下において約3ヶ月程度で全生活環を再現できることがわかった。また、Anthoceros agrestisの配偶体の再生過程にAgrobacteriumを感染させることで、安定形質転換系の作出に成功した。また安定形質転換体の選抜に用いることのできる薬剤の決定を行なった。次に、胞子体特異的発生遺伝子の探索のために配偶体と胞子体の比較トランスクリプトーム解析を実施するためにAnthoceros agrestisの配偶体組織のRNAシークエンスを行なった。 それをふまえて、平成27年度は、 (1)ツノゴケ類 Anthoceros agrestisより、ゲノムDNAを抽出し、ペアメイトライブラリーを作成し、イルミナ社の次世代シーケンサーHiseqにより、ゲノム配列の決定を行なった。 (2) 配偶体と胞子体の比較トランスクリプトーム解析のために、Anthoceros agrestisの若い胞子体組織、及び成長過程の胞子体組織のRNAシーケンスを実施した。 (3)平成26年度に引き続き、Anthoceros agrestisの安定形質転換体作出法の改良を行なうとともに、薬剤耐性の獲得による形質転換体の選抜を実施したが、薬剤により、選抜することができなかった。 (4)他のコケ植物で既知の胞子体発生遺伝子であるKNOX2遺伝子の発現解析のための導入DNAを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度の段階でAnthoceros agrestisの安定形質転換体の作成に成功し、薬剤耐性選抜に用いることのできる薬剤の決定を行なった。27年度には引き続き、それらの株の薬剤耐性による選抜に取り組んだ。安定形質転換体の薬剤選抜のために、形質転換時に導入した薬剤耐性遺伝子を発現誘導するプロモーターとして、これまで多くの陸上植物の形質転換実験に用いられて来た35Sプロモーターを用いて実施した。しかし、この形質転換により得られた形質転換体は薬剤耐性を持たなかった。この35Sプロモーターはツノゴケでは発現が弱く、形質転換体に薬剤耐性を付与することができなかったと考えられた。今後、ツノゴケに有効なプロモーターの選出が重要となる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは安定形質転換体の選抜方法の確立が重要課題となる。平成27年度に若い胞子体及び成長過程の胞子体のRNAシーケンスライブラリーを作成した。平成28年度の早い時期にこれらのライブラリーのシークエンスを行なう予定であり、この結果と平成26年度にシークエンスを実施した配偶体組織のRNAシークエンス結果を比較することで、いずれの世代でも強い発現を示す遺伝子を探索し、そのプロモーターを使用して薬剤耐性遺伝子の発現誘導を行なうような導入DNAを用いて形質転換を実施することで、薬剤耐性を獲得した形質転換体の作出を試みることとする。 また、配偶体と胞子体のRNAシークエンス結果を比較することで、胞子体特異的に発現する遺伝子を選抜する。これまでに他のコケ植物で知られている胞子体発生遺伝子であるLFY、WOX、及びKNOX遺伝子の機能解析とともに、これらの新規に見いだされた胞子体発生遺伝子の機能解析を行なう。 平成27年度に実施したペアエンドライブラリーによるゲノムシークエンス結果をふまえて、PacBioによるゲノムシークエンスを実施し、全ゲノム配列を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度はAnthoceros agrestisのPacBioによるゲノムシークエンスを実施する予定であったが、既報告のAnthoceros agrestisのゲノムサイズが約70 Mbという報告論文がデータ不足なため、情報が不確かな可能性が生じ、PacBioによるゲノムシークエンスを行なう前に、ゲノムサイズの概要を知る必要があった。その解決のため、まず、イルミナ社のHiseqによるペアエンドゲノムライブラリーを作成し、シークエンスを実施することとした。そのため、PacBioによるゲノムシークエンス費を平成28年度に繰り越した。 また、平成27年度に実施する予定だった胞子体のRNAシークエンスライブラリーの作成に手間取ったため、ライブラリーそのものの作成は平成27年度内に終了したが、シークエンスランは平成28年度に実施することとし、そのシークエンス費を平成28年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度予算で実施したHiseqによるペアエンドゲノムライブラリーのシークエンス結果をもとにPacBio用のゲノムライブラリーを作成し、ゲノムシークエンスを実施する。 また、平成27年度に作成した胞子体のRNAシークエンスライブラリーのシークエンスランを平成28年度の早い時期に実施する。
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