温暖で湿潤な気候下にある自然生態系では、特定の植食性昆虫が大発生することはまれで、何らかの要因によって植食性昆虫個体群の拡大が制御されている。こうした自然生態系における知識は、農業生態系における害虫管理等の面で重要であり、そのくわしいメカニズムの解明が待たれている。本研究プロジェクトにおいては、里山や水田畦畔などの環境において、スウィーピングやビーティングといった網羅的な採集方法によってさまざまな節足動物類を採取した。 その上で、次世代シーケンシング技術を利用して、微小な捕食性節足動物類の体内に存在する餌種の同定を高精度で行うことを目的とした。この新しい研究アプローチの確立には、サンプリングからDNA抽出、PCRプライマー設計、PCR増幅、シーケンシング、バイオインフォマティクス処理、および、群集生態学的統計解析という、多くのステップでの技術革新が求められ、当初、複数の問題から、技術開発が難航した。しかし、ひとつひとつのステップで技術改良を進めた結果、研究対象とする生物群を選ばずに、捕食-被食といった生物間相互作用のネットワークを大規模に明らかにする一連の手法を開発することに成功した。 こうした技術群は、国内外の生態学者を利すると期待されたため、英文のレビュー論文や、日本語による技術開発書(「DNA情報から生態系を読み解く -環境DNA・網羅的群集調査・生態ネットワーク-」2016年 共立出版)として公表した。次世代シーケンシングに基づくこの技術は、生物のDNA情報の集積事業(DNAバーコーディング)の大規模化にも応用することができるため、現在、里地・里山の食物網において特に重要と思われるクモ類を対象に、DNAバーコーディングのプロジェクトを共同研究ではじめている。
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