研究課題/領域番号 |
26650146
|
研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
大槻 涼 日本女子大学, 理学部, 研究員 (10646962)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | シダ植物 / ゲノム / ミトコンドリア / 次世代シーケンス / ヤブソテツ / 無配生殖 |
研究実績の概要 |
近年の次世代シーケンス技術の向上によって、大量のDNA配列データをもとにした、遺伝マーカーの開発や活用が盛んに行われるようになってきた。しかし、植物の中でもゲノムサイズが大きく、また、高次倍数体の多いシダ植物においては他の系統群と比較してもゲノム解読研究が立ち後れている状況にある。中でもシダ植物では、遺伝子間領域を含めたミトコンドリア全長配列解読の報告はない状況にある。これでは、仮に次世代シーケンスによって取得した大量のデータをもとにして遺伝マーカーを開発しても、意図せずオルガネラの領域が混入する可能性もある。 そこで本研究は、効率よくシダ植物のミトコンドリアゲノムを決定することを目的としている。決定の過程では、従来行われていた解析方法とは異なる新しい手法の開発に挑戦する。それは次世代シーケンサーから取得した、より未解析に近いデータそのままの状態で、そのデータがどこの配列か(核に由来するか、ミトコンドリアに由来するか、葉緑体に由来するかなど)を推定し、計算量を減らしてから解析する方法である。もしこの手法が実現できれば、巨大なゲノムを持つ生物であっても、欲しい領域の情報を効率よく得ることが可能になる。 材料はオシダ科の三倍体無配生殖型ヤブソテツ(Cyrtomium fortunei)である。 ミトコンドリア全長配列配列を2通りの方法で決定する。その2通りとは、(1)核・葉緑体・ミトコンドリアなどを分けずに細胞をそのまま破砕し、次世代シーケンサーを用い解析、得られたデータからミトコンドリア配列のみをパソコン上で抽出・再構築する方法と、(2)細胞分画法を用い、ミトコンドリアのみを選択的に抽出し、そこから配列を再構築する方法である。もし、正確にミトコンドリア配列を推定することができれば、上記の(1)、(2)の結果は同じになるはずである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の「ミトコンドリア全長配列配列を2通りの方法」のうちの昨年度は(1)を実施した。その結果を踏まえ、今年度は(2)の全ゲノムの中からミトコンドリアDNAのみを選択的に抽出し次世代シーケンサーを用いデータを取得することを計画していた。当初は超遠心分離機を用いた細胞分画法を検討していた。しかし、これまでの解析の結果、ヤブソテツのオルガネラゲノムにもマルチパータイト構造(ミトコンドリアゲノムが複数の長さの異なる環状構造を持つ)が存在する可能性が考えられたため、計画を一部変更した。具体的にはゲノム中の環状DNA以外を選択的に除去するDNaseを用い、短い環状構造をしたミトコンドリア配列もできるだけ解析できるようにした。 このような計画の一部変更もあったが、マルチターパイと構造のうちの一つについては全長の決定に成功し、今後も順次配列を決定する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでのデータ取得に結果、解析に必要なデータを得ることはできたと思われる。しかし、ゲノム配列の構築の段階で、反復配列(ATATAT...のような単純な配列から、繰り返し単位が数十塩基対におよぶものまで)が散在し、解析の障害となっている。さらに、コムギでも指摘のあるように、ヤブソテツでもミトコンドリアゲノム自身が複数の長さの異なる環状構造を持つ『マルチパータイト構造』をもつ可能性が示唆された。今後はマルチパータイト構造の全容を明らかにすると共に、構造変異も検出できるような解析手法の改良を進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
従来の超遠心機を用いた細胞分画法では、マルチパータイト構造を含む複雑なミトコンドリアゲノムを網羅的に解析することは難しいと考え、実験方法に変更を行った。それに伴い、解析に必要な機器や試薬、消耗品の購入計画にも変更が及んだため。
|
次年度使用額の使用計画 |
これまでの解析によって示唆された、ヤブソテツにみられるマルチパータイト構造の全容を把握する目的と、ミトコンドリアゲノム中に散在する繰り返し配列を網羅的解析を行うために、これまでとは異なる手法でのデータを取得する計画である。現在、Irys genome mapping systemを用い、数Mbpに及ぶゲノム構造のデータを取得する計画である。
|