近年の次世代シーケンス技術の向上によって、大量のDNA配列データをもとにした、遺伝マーカーの開発や活用が盛んに行われるようになってきた。しかし、植物の中でもゲノムサイズが大きく、また、高次倍数体の多いシダ植物においては他の系統群と比較してもゲノム解読研究が立ち後れている状況にある。中でもシダ植物では、遺伝子間領域を含めたミトコンドリア全長配列解読の報告はない状況にある。これでは、仮に次世代シーケンスによって取得した大量のデータをもとにして遺伝マーカーを開発しても、意図せずオルガネラの領域が混入する可能性もある。 そこで本研究は、効率よくシダ植物のミトコンドリアゲノムを決定することを目的としている。決定の過程では、従来行われていた解析方法とは異なる新しい手法の開発に挑戦する。それは次世代シーケンサーから取得した、より未解析に近いデータそのままの状態で、そのデータがどこの配列か(核に由来するか、ミトコンドリアに由来するか、葉緑体に由来するかなど)を推定し、計算量を減らしてから解析する方法である。もしこの手法が実現できれば、巨大なゲノムを持つ生物であっても、欲しい領域の情報を効率よく得ることが可能になる。 材料はオシダ科の三倍体無配生殖型ヤブソテツ(Cyrtomium fortunei)である。 ミトコンドリア全長配列配列を2通りの方法で決定する。その2通りとは、(1)核・葉緑体・ミトコンドリアなどを分けずに細胞をそのまま破砕し、次世代シーケンサーを用い解析、得られたデータからミトコンドリア配列のみをパソコン上で抽出・再構築する方法と、(2)細胞分画法を用い、ミトコンドリアのみを選択的に抽出し、そこから配列を再構築する方法である。もし、正確にミトコンドリア配列を推定することができれば、上記の(1)、(2)の結果は同じになるはずである。
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