研究課題
平成26年度に作成したTrichosporonales目17種の系統樹の論文を完成した。本目には約60の種を含むため、本年度は、特に基部に位置する種の系統学的位置の明確化を目的に研究を行った。まず、昨年度成果の30遺伝子からPCRプライマーを作成し、60種の基準株を対象としてサンガー法により塩基配列を決定することを検討したが、予算的にも労力的にも困難が推定された。また、この方法では、系統樹は作成できても、分類に重要である表現型の探索や検証には、さらに別の方法を講じなければならない。現在、国際的な流れとして、ゲノムデータの中に表現型を探す方向にあるため、この内容も目的に含めることとし、基部に位置する6種についてドラフトゲノム解析を計画し、これを遂行した。前回の17種、および既に公開・発表されている種と併せて、ゲノム全体を用いた系統樹を作成中である。また、イタリアのペルージャで開催されたInternational Specialized Symposium on Yeastsに参加し、発表するとともに、酵母の国際命名サブコミッティーのメンバーと分類体系に関する議論を行った。この議論をベースとして、ハラタケ亜門(Trichosporonales目を含む)の再分類については、オランダー中国のグループにより発表された。また、第59回日本医真菌学会総会・学術集会において、上記系統樹の発表を行った。サビキン亜門(Rhodosporidium属およびRhodotorula属を含む)の系統樹については、オランダー中国が行った7遺伝子系統樹の議論に参加した。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の計画であった、ハラタケ亜門に位置する酵母の再分類は、論文発表がなされおおむね達成された。ただし、不備と推定される部分もあり、それは今後完成するゲノム系統樹などを参考に修正していく予定である。サビキン亜門も再分類については、多くの議論が残されているもののとりあえずの発表は行われた。平成28年に日本で開催される国際会議で調整が行われると推定する。
喫緊の課題としては、子嚢菌系酵母のCandida属について、まだ再分類が終わっていないため、これが必要である。また、命名の優先権について議論をしなければならない部分が残っているため、この議論が必要である。今後の研究推進の方策としては、1)ハラタケ亜門やサビキン亜門は分類体系再編が行われたが、時間が限られていたため、属や科等の高次分類群を識別する表現型が提示されていないグループが多い。現在の国際研究コミュニティーでは、これをゲノムデータに求めるという動きが出始めているが、我々が中心となって解析を進めているTrichosporonales目は最初からこれを目的としていたため、目的達成に非常に近い位置にあると推定する。遺伝子や機能と系統関係を整理して、これを推進していく。2)これまでのゲノム解析の過程で、菌類では遺伝子重複やハイブリッドが予想以上に多いことがわかった。現在Saccharomyces属では、ビール酵母等の機能や種分化の研究のため、遺伝子移入 (introgression) の議論が盛んに行わているが、我々のデータはこれはSaccharomyces属に限られたことではなく、自然界において頻繁に起きていることを示唆するものと推定する。今後は現有のデータを基にこれについても取り組んでいく。3)菌類のバックボーン系統樹の作成として、多様な種のドラフトゲノム解析と系統樹の作成が世界レベルで進んでいるため、これに参画していく。
解析したゲノムデータからプライマーを作成し、全種の系統樹を作成することを検討したところ、1株あたり10万円以上の物品費が必要と推定された。そのため予定を変更し、系統樹の基部にあり、未だ系統学的位置が明確ではない6株を選んで、浅いゲノム解析を行った。ゲノム解析費用が想定よりも少し少なかったため、また試料(ドライアイス付け冷凍品)の送付の回数が少なかったため等で、次年度使用額が生じた。
次年度使用額の61,840円は、28年度も系統樹の基部に位置する種の帰属のための解析、および表現型の解析に用いる。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
PLOS ONE
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