本研究の目的は、「水生動物が溶存アミノ酸をエネルギーとして利用する可能性」を示すことである。エネルギーとしての利用可能性は、溶存アミノ酸を含む環境水で水生動物を飼育した場合に、(1)動物の成長が促進する、あるいは(2)アミノ酸由来の物質が動物の体内に取り込まれる、という2点で評価した。 平成26年度の実験ではエゾサンショウウオの幼生を材料とし、「幼生の成長を促進させるアミノ酸」を探索した。実験は濾過後に煮沸滅菌した水を使用し、対象の動物以外に真核生物がいない状況で実施した。テストした8種のアミノ酸のうち、5種のアミノ酸(チロシン・フェニルアラニン・リシン・セリン・トレオニン)で幼生の成長が促進することを見つけた。 平成27年度(最終年度)には、「アミノ酸由来の物質が幼生の体内に取り込まれるか」を確認するための実験を行った。前年の実験で効果の高かったアミノ酸(フェニルアラニン)の安定同位体化合物をトレーサーとして用い、前年と同様の条件でエゾサンショウオの幼生を飼育した。その結果、アミノ酸の添加によって、幼生の成長が高まること(昨年の結果の再現性の確認)、さらにアミノ酸由来の物質が幼生の尾部組織に取り込まれていることを確認した。以上の結果は、「真核生物がいない状況でも水生動物はエネルギーとしての溶存アミノ酸を利用できる」ことを示す。 細菌などの微生物が溶存アミノ酸を直接利用し増殖することは、事実として一般に認知されている。しかし、脊椎動物による溶存アミノ酸の利用は、これまでに想定されてこなかった。つまり、現在の食物網の理論では、溶存アミノ酸から脊椎動物へのエネルギーの伝達には「エネルギーを媒介する他の生物が必要」と仮定している。本研究の成果は、「これまでの慣習的な栄養伝達経路の有り様」の変更を促すもので、今後の研究の先駆的な事例になると期待している。
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