本研究では、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeを不規則な環境変動にさらしながら500世代継代培養する進化実験を行い、ゲノム内の遺伝子重複の数が変動環境下で増加するかどうか、また、重複領域数および重複遺伝子数と適応度の関係を調べた。実験に使用する酵母株には、突然変異率の異なる2種類の株(一般的な実験室酵母X2180-1bと、ゲノム領域の重複や欠失頻度の高いRAD27変異株)を選択した。培養条件には、環境変動の大きさや間隔の異なる条件を複数設定し、コントロールとして一定の環境下で同じ期間培養する条件も用意した。進化実験の結果、コントロールを含むすべての培養条件について、新たに重複が起きたと考えられるゲノム領域および遺伝子が検出された。不規則変動環境を経験させた培養条件では、コントロールと比較して多くの重複領域および重複遺伝子が検出され、不規則な環境変動が遺伝子の重複を促進するという予測と一致した。また、重複領域数および重複遺伝子数が多いほど不規則に変動する複数の環境に対する平均適応度が高いことも示された。これらの結果より、変動環境下ではゲノム重複を多く起こした個体が自然選択されてきたと考えられる。本研究で行った500世代の進化実験では、重複した遺伝子が新規機能を得るために十分な期間があったとは言えないため、重複による遺伝子発現量の増加や遺伝子ネットワークの頑健性の強化が適応度の上昇に貢献していた可能性がある。
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