本年度は、種内多様性の生態的機能やその背景にあるメカニズムを明らかにすることと、それらの成果の公表を目的として研究を実施した。 まずは、前年度に引き続き、ショウジョウバエを用いた実験生態学的検証を行なった。ここでは、for遺伝子によってコードされた種内の行動多型を用い、多様性がある状態とない状態を人為的に作り出し、各状態における集団の生産性を測定、比較した。すると、平衡選択の働く条件(低栄養条件)では、多様性には集団の生産性に対する正の効果が認められた。一方、平衡選択の生じない条件(高栄養条件)では、多様性の効果が検出されなかった。多様性効果の検出された低栄養条件の実験に用いた個体について、遺伝子型判定を行ない、先行研究に倣い多様性効果を補償性効果と選択効果に分離したところ、前者によって、正味の多様性効果の大部分が説明できることが明らかになった。すなわち、複数の行動型を混合した場合、単独状態とは異なった個体間相互作用が生じ、それが死亡率の低下や生産性の増大に関わったことを示唆している。ただし、行動的相互作用の詳細については十分なデータが得られなかった。 上記の実験とは別に行なった系統種間比較では、種内に色彩の多様性のある種の分布範囲がそうでない種よりも有意に広いことが多くの脊椎動物の系統(哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類)で明らかになった。これらの成果について論文の執筆を行なうとともに、種内多様性の生態的機能に関する総説を投稿している。
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