研究課題/領域番号 |
26650156
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大林 夏湖 東京大学, 総合文化研究科, 特任研究員 (20448202)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / 表現型の可塑性 / 毒遺伝子 / アナトキシン |
研究実績の概要 |
平成26年度は研究対象であるネンジュモ目Cuspidothrix issatschencoiの新規野外単離株作成のため、複数の湖沼・池を訪れて採水を行い、同種の存在が確認された地点から新規の単離株作成・培養を行った。また一細胞培養計測系での蛍光顕微鏡下でC. issatschencoi培養株を用い、撮影・培養条件検討を行った。C. issatschencoiは光捕集色素フィコビリソームを持つことから、フィコシアニンを励起した際に放出される蛍光を蛍光フィルター(TRITC)を用いて検出し、細胞の全体構造を蛍光顕微鏡の励起光下で撮影可能であることを確認した。この手法により糸状体を形成するこのシアノバクテリアのバイオマスを測定することが可能となった。表現型の可塑性を測定するのに用いる窒素固定能と毒生産能(神経毒:アナトキシン)の遺伝子発現形質転換体作成については、手間と時間の制約から、毒生産能の形質転換体に的を絞り作成をすることとした。このシアノバクテリアには無毒株と有毒株が存在し、顕微鏡観察だけでは形態から無毒株か有毒株かを判断することができない。以前は生成される毒を直接測定していたが、近年の分子遺伝学的手法の発達により、毒生成を行うジーンクラスタに着目し毒遺伝子の一部を検出することで有毒株と無毒株を識別することが可能になっている。神経毒アナトキシンを生成するアナトキシンジーンクラスタについては、アナトキシンを生成する近縁のAnabaena属やOscillatoria属でその合成遺伝子群が近年明らかになってきた。本研究対象種でもアナトキシンジーンクラスタを構成する一部配列から、プロモーター領域の探査をprimer walking 法を用いて行っている。今後primer waking法によって明らかになったプロモーター領域をベクターに取り込み、形質転換体を作成する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外単離株の新規作成や培養を順調に行っている。窒素固定能の有無、アナトキシン遺伝子の有無のスクリーニング用の実験条件などの検討も行い、一細胞培養計測系での顕微鏡下の設定条件など検証も行った。毒遺伝子(アナトキシン)の遺伝子発現をみるための形質転換体を作成するため、現在未知のプロモーター領域をprimer walking法により探索を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
研究対象のネンジュモ目シアノバクテリアC. issatschencoiの有毒株は、アジアでは2013年に報告されたばかりであり、いまだ生理生態学的に未解明な部分が多い。現在行っているアナトキシンの生成に関与する遺伝子群でのprimer walkingは、アジア初の報告となった単離培養株(有毒株)で行っている。アナトキシン遺伝子のプロモーター領域については順調にいけば数か月内に解析が終了する。その後目的とするベクター(蛍光色素GFP+アナトキシンプロモーター領域を組み込んだもの)が研究対象種C. issatschencoiに取り込まれ増幅されるかどうかは、このシアノバクテリア種の特性に依存し、既存の手法が応用できないほど多くの制限酵素を持つなど不測の事態が起こることも考えられる。このため少し時間を要する可能性もあるが、最終的には毒遺伝子(ana)発現を観察可能な形質転換体の作成を試みたいと考えている。もしこの形質転換株の作成に成功すれば世界初の毒遺伝子発現に着目した形質転換体となり、現在の栄養塩との関連での表現型可塑性の測定だけでなく、さまざまな実験に使用することが可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
野外から採取した研究対象種の単離培養株(約150株)の増殖速度にばらつきがあり、多くの系統株で十分なDNAを得るまでに時間を要した。このため、DNA配列の外注料金(約100個体分4万円×3回×税1.08)の料金を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
今月末から来月初めにはすべての株で十分なDNAを採取できる量となると考えられるため、DNAを抽出し遺伝子配列を外注して決定する予定である。このため使用目的に変更はない。
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