近年、中国の経済発展に伴う環境中の粒子状物質(Particulate Matter)の濃度の上昇による健康被害は中国国内の問題にとどまらず、大気の流れによる日本への越境汚染と健康被害が懸念されている。しかし、日本では自然環境下で大気汚染研究ができるような環境ではなく,これまで大気汚染の生体に及ぼす影響は,細胞培養を使ったIn vitroの研究や臓器ごとへの影響の研究にとどまり、自然条件下での大気汚染による生体全体に対する影響やゲノムワイドな研究報告は見られなかった。本研究は、北京市内の自然環境下でのPM2.5の生体に対する影響を健常及び病態マウスを用いて、組織の病理学的解析と遺伝子発現レベルに対する影響を網羅的に解析することによりPM2.5のバイオマーカーを見出すことを目標としている。これによって、日本への越境汚染が原因となる疾患の予防や診断と治療に有益な情報を提供しようとするものである。
本年度は、病態下での大気汚染により生体内の変化を検討するために卵白アルブミン(OVA)誘発アレルギー疾患モデルマウスを作成した。これらのマウスを2群にわけ、1群はSPFの空気清浄の環境下に飼育し、他の群は北京でのPM2.5のピークの季節に野外で飼育した。1ヶ月飼育後、血液と鼻や肺、脾臓、心臓を採集し、肺の免疫組織染色を行った。PM2.5の暴露のマウスでは肺および気管支の組織に変化が見られた。また、PM2.5の非暴露・暴露マウスの血液と肺から調製したtotal RNAを用いて、マイクロアレイの解析を行った。大気汚染非暴露正常マウスに対する大気汚染暴露マウス及び大気汚染暴露アレルギーマウスの遺伝子発現解析を行ったところ,発現量が変動する遺伝子をいくつか見いだしている。
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