ハダカアリCardiocondyla kagutsuchi は、働きアリの体長が2mmほどの小型のアリで、日本では関東以南の主に海岸沿いから八重山諸島にかけて分布している。このアリの巣穴付近には、しばしば他種のアリの死骸が確認されており、他種アリの死骸を巣穴付近に運ぶハダカアリの行動も、しばしば観察される。そこで、その様な行動をゾンビディフェンスと名付け、その適応的な意味の解明を野外と室内実験で行った。その結果、(1)ハダカアリは、自身の生息地周辺に生息する他種のアリの死骸を利用しており、特に、トビイロシワアリTetramorium tsushimaeの死骸を利用することが明らかとなった、(2)この行動は、飼育条件下のコロニーにトビイロシワアリの死骸をおいても触発されることが無く、生きたトビイロシワアリからの接触や攻撃がないと解発されないことが明らかとなった、(3)巣の周りのトビイロシワアリの生存個体数が多いほど、ゾンビディフェンスに使用される死体数が増加した、(4)巣の周りのトビイロシワアリの生存個体数が多いほど、ゾンビディフェンスの継続時間が増加した。一般に社会性昆虫では、死骸は病原菌の感染源となり忌避される傾向が強い。したがって、以上の結果は、ハダカアリは、トビイロシワアリの死体を用いて、その死骸が持つ忌避作用を利用して、トビイロシワアリからの攻撃を回避しているものと考えられた。
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