研究課題
高温多湿の熱帯の環境では化学反応と生物活動が1年を通じて盛んなため、岩石からの土壌の生成と風化の速度が速く、植物の生育や生態系炭素固定機能に必要な栄養塩類が土壌から失われやすい。このような環境で熱帯自然林が持続的な生態系を維持するメカニズムは全球レベルの生態系の理解にも重要だが、土壌風化の要であるケイ素の動態に熱帯森林樹種がどのように関与するかはこれまで調べられてなかった。本研究では、植物を介してのケイ素循環という新しい課題の開拓を目的として、土壌風化度の異なる森林において、植物を介してのケイ素循環を定量化する基礎データを集めた。 半島マレーシアの低地林とボルネオ島マレーシア・サバ州のキナバル山(標高700-3100 m)の森林調査区において、優占樹種の葉におけるケイ素蓄積、トラップで定期的に回収されたリターサンプルのケイ素濃度、および、土壌A層上部のケイ素可給性を定量化した。生葉とリターからは乾燥・粉末化後にアルカリ溶液でケイ素を抽出し、 また、風乾土壌からは蒸留水で振とう後に溶出するケイ素濃度を測定した。この結果得られた新たな知見は、以下のようにまとめられる。多くの熱帯林の主要構成樹種間には、能動的にケイ素を吸収・蓄積する種からケイ素を排除する非蓄積種まで、葉におけるケイ素蓄積濃度に大きな違いがあった。ケイ素高蓄積樹種は低地林に多く、標高が高くなるほどケイ素蓄積種の頻度は減少し、葉リターのケイ素濃度も標高が高いほど低かった。キナバル山には、 堆積岩と超塩基岩という対照的な母岩から生成した土壌があるが、意外にも、同じ標高では土壌上部のA層のケイ素可給性には違いが見られなかった。まとめると、本研究は、熱帯低地林の樹種の多くがケイ素蓄積という形質をなんらかの理由で進化させ、 ケイ素循環と土壌の化学物性に大きな影響を与えている可能性を世界で初めて明らかにした。
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