研究課題/領域番号 |
26650166
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
林 昌平 島根大学, 生物資源科学部, 助教 (20725593)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 共生 / シアノバクテリア / 寒天培地 / 従属栄養細菌 |
研究実績の概要 |
純粋培養しているシアノバクテリアSynechococcus leopoliensis CCAP1405/1株は、液体培地で増殖するが、寒天培地では増殖しない。しかし、Bacillus subtilis 168などの従属栄養細菌を同一寒天培地で共培養すると1405/1株が増殖する。共培養した細菌が寒天培地での増殖阻害を解除していると予想した。そこで、従属栄養細菌が寒天培地で1405/1株を増殖させる能力に関与する遺伝子を同定し、この機構の解明を試みた。 T-5株についてトランスポゾンを用いて破壊株を作成し1405/1株を増殖させる能力を欠損した株をスクリーニングすることで、関与遺伝子の同定を試みた。しかし、得られた2株の欠損株において破壊されていた遺伝子から1405/1株を増殖させる機構を推定するのには至らなかった。 B. subtilis 168の遺伝子破壊ライブラリー(国立遺伝学研究所)の全2515株から、1405/1株増殖誘導能欠損株9株を得て関与遺伝子を同定した。関与遺伝子の推定機能は、トランスポーター、ヒスチジンキナーゼ、反応酵素、機能未知の4グループに分類された。その中の3つの遺伝子yxeO、yvgQ、yvgRはシステインの輸送、生合成に関与していることが推定されている。そこで、寒天培地にシステインを添加するとyvgQ、yvgR欠損株の1405/1株増殖誘導能が相補され、システイン合成経路の関与が示唆された。また、推定機能の関連性が低い遺伝子が関与遺伝子として同定されたことから、この機構には様々な因子が関与していると考えられる。これらの結果の意義として、1405/1株を増殖させる機構に関与する遺伝子が初めて特定されたことが挙げられる。さらに、これまで関与が推定されてきたH2O2の除去とは異なる機構であることが予想された点が重要であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
寒天培地で単独では増殖しないS. leopoliensis CCAP1405/1株が、別の従属栄養細菌と同一寒天培地で共培養すると増殖する機構の解明を試みた。主に従属栄養細菌が1405/1株を増殖させる能力に着目し、T-5株のトランスポゾンによるランダム遺伝子破壊株、B. subtilis 168の遺伝子破壊株ライブラリーから、寒天培地で1405/1株を増殖させる能力を欠損した株をスクリーニングし、関与遺伝子を同定することで、その機構を推定できると考え実験を行った。当初の計画通り、いくつかの1405/1株増殖誘導能欠損株が単離され、関与遺伝子が同定された。B. subtilis 168の増殖誘導能欠損株のスクリーニング結果から、システイン合成経路の関与が示唆されたが、推定機能の関連性が低い遺伝子が関与遺伝子として同定され、様々な因子が関与していると考えられた。当初は関連遺伝子の同定によって1405/1株増殖誘導の機構をある程度推定できるのではないかと考えていたが、機構の推定には至らなかった。 また、1405/1株増殖誘導能の有無をハイスループットな系で調査するために96穴ウェルプレートを用いているが、培養ごとに1405/1株が増殖したりしなかったりする場合があることがわかった。 関連遺伝子の同定による1405/1株増殖誘導の機構の解明には至らず、また1405/1株増殖誘導能の実験再現性に若干の問題があることが分かったが、B. subtilis 168の増殖誘導能欠損株を同定することが出来、システイン合成経路の関与を示唆することが出来たので現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後はB. subtilis 168の増殖誘導能欠損株に焦点を絞って研究していくこととした。前年度に引き続き、特定された関与遺伝子の機能解析を進めていく。まずB. subtilis 168の関与遺伝子を大腸菌で発現させ、1405/1株を増殖させる能力を獲得するかを調査して、それらの遺伝子が本機構に関与していることを確認する予定である。特にシステインの輸送、生合成に関与していることが推定されている3つの遺伝子yxeO、yvgQ、yvgRに着目する。寒天培地にシステインを添加するとyvgQ、yvgR欠損株の1405/1株を増殖させる能力が相補されたことからシステイン合成経路の関与が示唆されており、また、システイン合成系路にチオ硫酸が関与しているという報告がある。チオ硫酸は寒天培地に添加することで1405/1株の単独での増殖を誘導することが分かっている。おそらく寒天培地の1405/1株を増殖させる機構には複数の因子が複雑に関与しており、その一つにシステイン合成経路の酵素が関わっているのではないかと考えている。 また、1405/1株増殖誘導能をハイスループットな系で調査するために96穴ウェルプレートを用いているが、増殖誘導能欠損株と共培養した1405/1株がまれに増殖する場合があり、1405/1株の増殖に再現性がみられない場合があることがわかった。1405/1株やB. subtilis 168の接種密度はできる限り同じになるように操作しているが、各細菌の状態などもできる限り同じになるようにして再現性のある実験系にする。 1405/1株単独条件でも寒天培地にチオ硫酸ナトリウムを添加することで1405/1株が増殖するようになることは以前からわかっており、今後、別の化合物にも同様の効果があるか、またB. subtilis 168の培養液中の活性物質の探索も行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費、旅費等に使用した際に端数が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に生化学試薬の購入に使用する。
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