赤道直下のスラウェシ島の湖沼性淡水魚の多くは,異なる湖に生息する近縁姉妹種間で体色が質的に大きく異なるが,同じ湖に生息する種は分類群を超えて体色が類似している.これは,センサリーバイアスによる収斂進化の結果を反映しているかもしれない.本研究は,本島の異なる湖に生息するメダカ科,サヨリ科,およびハゼ科魚類を対象に,各湖の光環境,各種のオスの体色,および体色に対するメスの選好性の間の相関の有無からその可能性を検討する.さらに,各種のメスの眼球で発現している遺伝子の発現量と配列の解析から,色覚の平行進化をもたらす共通の原因遺伝子の探索も行い,体色の多様化と類似化の遺伝基盤にも迫る. 本年度は,昨年度に採集したスラウェシ島南東部およびムナ島のメダカ(Oryzias woworae種群)8集団とサヨリ(Nomorhamphus種群)4集団の眼球で発現している遺伝子の網羅的発現解析を行った.RNA-Seqを用いて眼球で発現しているオプシン遺伝子8種類の相対的発現量を比較したところ,メダカでは,各生息地の水の光透過特性(トランスミッタンス)ならびに日射強度(イラディアンス)と相関した各オプシンの発現パターンが見られ,環境光に対する適応進化が示唆されたが,アミノ酸配列に集団間で大きな違いは見られなかった.サヨリでもRNA-Seqは終了しており,発現量とアミノ酸の配列解析を進めている.今後は,メダカとサヨリの発現量の比較解析を行う予定である.
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