研究課題/領域番号 |
26650168
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
辻本 惠 国立極地研究所, 研究教育系, 特任研究員 (90634650)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | クマムシ / 南極 / 生存戦略 / 繁殖 / 極限環境 |
研究実績の概要 |
極度の低温や乾燥、限られた繁殖期間という、生物にとっての極限環境の一つと考えられる南極において、広域に分布している南極の固有種であるクマムシAcutuncus antarcticusが、その極限環境においてどのように成長し、繁殖しているのかを明らかにすることを目的に、下記の実験・調査を行った。平成26年度は、まず異なる温度下でA. antarcticusを飼育することで、生活史や繁殖の温度特性を調べた。その結果、わずかな温度差で、A. antarcticusの生存期間や世代時間、繁殖成績が大きく変化することが分かった。また、A. antarcticusは10℃から15℃において最も繁殖成績が高く、南極に生息する固有種であるにも関わらず、その至適温度は比較的高いことがわかった。南極に生息する微小動物の生活史や繁殖の温度特性について明らかにしたのは、本研究が初めてである。以上の研究成果は国際学会において口頭発表を行うと共に、国内学会においても発表した。また26年度は第56次日本南極地域観測隊に参加し、南極においてフィールド調査を行った。2015年1月に、昭和基地周辺露岩域に生育するギンゴケ群落内に温湿度ロガーを設置した。本ロガーの記録データは2016年1月に回収する予定であり、回収データから、A. antarcticusが生息する南極のギンゴケ群落内における、繁殖期間の長さ、繁殖期間における温度変動と環境ストレスの頻度や強度、また冬期の温湿度変動を調べる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度においては、室内実験の一つである生活史と温度特性に関する実験データを全て取得することができたため、安定環境下における生態調査を終えることができた。また、南極における生息環境を調べるための南極におけるフィールド調査も実施できたため、おおむね順調に進んでいるが、一部に遅れもある。26年度での開始を予定していた環境耐性能力を調べる室内実験については、第56次日本南極地域観測隊への参加と準備に時間をとられ、取りかかることができなかった。本実験に関しては、27年度に集中して行いデータを取得する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度においては室内実験を行い、A. antarcticusの環境耐性能力と、環境ストレス下の生活史を調べる。平成28年度には、これらの室内実験を全て終わらせる。また、南極において取得・回収した生息環境における温度・湿度データの解析を行い、ギンゴケ群落内の年間温湿度変動を調べる。フィールド調査で得られた生息環境内の年間温湿度変動と、室内実験で得られた①各温度帯における生活史、②各成長段階における凍結・乾燥耐性能力、③環境ストレスを与えた際の生活史、繁殖生態のデータから、南極の極限環境においてA. antarcticusがどのように成長し、繁殖しているのかを明らかにする。以上の結果をもとに、極限環境を生き抜く南極クマムシA. antarcticusの生存戦略を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
環境耐性実験等を実施するための環境試験機を予算内で購入することができないことが分かり、機器のレンタルをして実験を行うことに研究計画を変更することとなった。平成26年度においては、日本南極地域観測隊の準備・出張に長期間かかることとなり、予定していた環境耐性実験に取りかかることができないため、平成27年度に機器のレンタルをし、環境耐性実験等を行うこととした。そのため、環境耐性実験を実施するための試験機購入費用、実験消耗品購入費用を平成26年度に使用しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に使用しなかった研究費については、平成27年度において環境試験機のレンタル費用、実験消耗品購入費用として使用し、環境耐性実験、環境ストレス下における生活史調査の実験を実施する。
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