本研究では、地球表面積の7割を占める海洋の底のさらに下に広がる海底下地層に生息する微生物を研究のターゲットとする。生命生存の極限に位置する環境を対象とし、現場を特徴付ける環境条件を遺伝子の誘導因子、すなわちアクセスの扉とし、機能を特定することが著しく困難な遺伝子の機能探索を実施することを目的とした。具体的には微生物の代謝基質となりうる物質を用いて遺伝子のスイッチがONとなるような遺伝子発現誘導を行い、膨大な環境中の遺伝子断片から発現が起こった遺伝子断片を効率的に取り出すことの出 来る機能遺伝子発現解析(SIGEX:Substrate Induced Gene Expression)を応用する。 平成28年度では平成27年度に実施した基質誘導によって得られたクローンの挿入断片の塩基配列解析、及びクローンライブラリー作成の新規手法の検討を行った。塩基配列解析の結果からは、これまでの実験から想定していたものより鎖長の短い断片が比較的多く挿入されていることが明らかとなったほか、転写因子として働く可能性が高い断片配列なども明らかになった。また、その一部は今回用いた基質による誘導が知られていないものであった。新規手法の検討実験においては、断片化した大腸菌ゲノムをモデルとして挿入したところ、これまで用いていたカスタムTOPOベクターによるライブラリー構築と同等程度のクローンバリエーションを得ることに成功した。これらの結果により、今回用いたSIGEX法は大規模シーケンスによる膨大なデータとは異なった側面からメタゲノムライブラリー中の遺伝子機能同定にアプローチする技術として高いポテンシャルを有することが示された。
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