RNAサイレンシングの誘導を量的に制御し、特定の遺伝子のmRNA量を調節することを介して植物の形質を改変することを念頭に置き、RNAサイレンシングの植物体における動態、ならびに、その個体間や世代間での差異を明らかにする研究を行ってきた。そのモデル系となる研究材料として、主に緑色蛍光タンパク質 (GFP) 遺伝子を導入したダイズを用いて研究を行った。一般にRNAサイレンシングの植物体内における広がりには、維管束を介して広がる機構と細胞間で広がる機構が想定されていた。本研究においてGFP蛍光の消失を観察した結果は、これらの機構と矛盾しないものであった。このことをさらに検証するため、蛍光トレーサーを組織に注入し、時間の経過に伴う広がりを観察したところ、GFP遺伝子のサイレンシングの広がりと同様な様式での連続的な広がりが検出され、RNAサイレンシングの広がりに関与する可動性のシグナルの存在が仮定された。 可動性シグナルとして想定可能な低分子RNAに焦点を当て、RNAサイレンシングに伴って産生した低分子RNAと遺伝子領域との対応を解析した結果、低分子RNAの産生箇所は遺伝子領域において不均等に分布することが明らかになった。また、シグナルの移動を検証する目的から接ぎ木を活用した実験を行ったところ、サイレンシングを起こす領域の拡大と矛盾しない観察結果が得られたが、師管液の滞留の影響等に関する更なる検証が必要であると考えられた。サイレンシングの植物体内での広がりに関する観察結果、ならびに、組織学的な解析によって確認した維管束の連結に関する形態的特徴に基づき、組織間が限られた数の維管束で連結されていることが、GFP遺伝子のサイレンシングの植物体内での広がりの制限要因となりうるものと示唆された。
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