本研究は、これまで植物の環境応答においてほとんど解析されてこなかったイノシトールピロリン酸(PP-IPs)に着目し、その環境ストレス耐性における役割を明らかにすることを目的とした。主としてPP-IPs合成酵素遺伝子のうち、我々が植物で初めて同定したOsKCS1~6の機能解析を行った。 (1)生化学的解析:イネ種子に含まれるPP-IPsのうち、2種類のイノシトール七リン酸(1PP-IP7と5PP-IP7)と1種類のIP8を分離検出する方法を確立した。これにより、植物にもイノシトール環の一位にリン酸基を付加するVIP1と五位に付加するKCS1の2つのPP-IPs合成酵素が存在することを初めて示した。 (2)逆遺伝学的解析:植物の環境ストレス応答に重要な役割を果たすアブシジン酸(ABA)に対する応答にPP-IPsが関与するかを明らかにするため、OsKCS1とOsVIP1の発現抑制組換えイネを作出し、発芽におけるABA応答を調査した結果、OsKCS1抑制体では1PP-IP7が増加してABA感受性が高まること、OsVIP1抑制体では1PP-IP7が減少してABA感受性が低下することが明らかとなった。 (3)遺伝学的解析:新たな相補性検定から、酵母のストレス耐性を最もよく相補できるのはOsKCS1であることを明らかにした。PP-IPs合成酵素の基質であるIP6が減少した変異体では、1PP-IP7が減少するとともにABA感受性が低下することを明らかにした。 (4)分子生物学的解析:Real time RT-PCRおよびプロモーター:GUS発現解析から、OsKCS1~6の詳細な遺伝子発現を明らかにした。さらに、塩ストレスやABAに応答するOsKCSを同定した。 以上、PP-IPs、特に1PP-IP7が植物のABA応答(ストレス応答)に重要な働きを果たす可能性を初めて示すことができた。
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