研究課題/領域番号 |
26660008
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
佐藤 壮一郎 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 研究員 (00399809)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / プロモーター / 次世代シーケンサー / ゲノム / ヒストン / シロイヌナズナ / 遺伝子転移 / 植物 |
研究実績の概要 |
植物の核ゲノムでは、配列のシャッフリングや外来DNAの挿入によって、新たな転写領域が生じることがある。この現象には+1ヌクレオソームと呼ばれる特殊なクロマチンが関与すると考えられてきたが、その詳細なプロセスはよくわかっていない。本研究では、この問題を解明する為に、様々なモデル遺伝子を植物ゲノムにランダム挿入し、挿入箇所近傍のクロマチンを高速かつ大量に解析する実験系 (ChIP-TRIP法) の開発を行っている。ChIP-TRIP法は、TRIP法と呼ばれる次世代シーケンサーを用いたレポーター遺伝子の網羅的発現解析法に基づいている。TRIP法は、動物培養細胞に対して用いられる方法であるため、植物でChIP-TRIP解析を行う為には、最初に、植物を対象としたTRIP実験系を確立する必要がある。 初年度は、1) TRIP法をシロイヌナズナT87培養細胞の解析用に改変するとともに、2) レポーター遺伝子挿入領域のクロマチンDNAを精製する実験系の確立 を行った。(1) では、T87培養細胞にプロモーター欠損型レポーターコンストラクトを形質転換し、約15,000系統の形質転換細胞を得ることに成功した。次に、次世代シーケンサーMiSeqを用いて、約4,000種のレポーター遺伝子の挿入位置と転写レベルを決定した。その結果、レポーター遺伝子の転写レベルは、挿入位置周辺に存在する遺伝子やプロモーター等の配列構造や、ヘテロクロマチン化の影響をほとんど受けず、いずれの領域でも、挿入されたレポーター遺伝子数の約3割が転写されることが明らかとなった。(2) では、認識配列の長い制限酵素と特殊なアダプターオリゴDNAを用いて、レポーター遺伝子周辺領域のクロマチンDNAを精製する実験系の確立を試みており、現在、精製条件の検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ChIP-TRIP法は4つのステップで構成されている。具体的には、1) TRIPレポーターコンストラクトを導入した多数の形質転換植物の作製、2) 次世代シーケンサーを用いたレポーター遺伝子の挿入位置の決定と発現解析、3)レポーター遺伝子挿入領域のクロマチンの精製、4) 精製クロマチンを用いたChIP-Seq解析である。この内 (4) は、一般的なChIP-Seq法で行われる為、(1)から(3)までの実験法を確立することが非常に重要である。 初年度は (1) と (2) について、実験系を確立することができた。特に、T87培養細胞を用いることで、約15,000系統という当初の想定以上の数の形質転換系統を作出し、そのうち約4,000系統の形質転換体についてレポーター遺伝子のマッピングと発現解析を行うことができた。解析系統数については、今後も拡張を続ける予定である。また (3) については、特殊なアダプターオリゴDNAを用いて、レポーター遺伝子挿入領域のクロマチンDNAを精製・濃縮する方法を新たに開発中である。これまで、クロマチンが結合していない精製DNAを用いたモデル実験では精製が成功しており、レポーター遺伝子が挿入されていない領域に比べて最大25倍の濃縮率を実現している。現在はこの条件を基に、クロマチンDNAの精製条件の最適化を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は、シロイヌナズナT87培養細胞を用いた植物版TRIP実験系の確立と、ChIP-TRIP解析へ向けたクロマチン精製法の検討を行った。その結果、多数の形質転換細胞の作製と、次世代シーケンサーを用いた形質転換細胞の発現解析を実現することが出来た。また、クロマチン精製法の検討については、精製方法の基本骨格が確立でき、細かな精製条件を検討する段階まで到達することが出来た。今後はこの精製方法を確立し、修飾ヒストンやヒストンバリアントについて、解析を行う。 一方、レポーター遺伝子の発現解析から、植物核ゲノムにおける新規挿入配列の転写メカニズムについて、新しい知見が得られた。これまで、新規に挿入された外来配列が転写される為には、そのような配列が、既存のプロモーターの下流やユークロマチン領域のような転写領域に挿入される必要があると考えられてきたが、本研究の結果から、非転写領域に挿入された場合でも、同様の確率で転写されることが示唆された。今後は、より詳細かつ信頼性の高い解析を行う為に、リファレンスデータとなる野生型T87培養細胞のRNA-Seq、ChIP-Seqのデータを拡充する必要がある。 そこで2015年度は、 (1)レポーター遺伝子挿入領域のクロマチンDNA精製条件の最適化、(2) ChIP-TRIP解析によるレポーター遺伝子挿入領域のヒストンの解析、(3) レポーター遺伝子挿入領域の転写開始点マッピング、(4) 野生型T87培養細胞のRNA-Seq、ChIP-Seq解析 を行う。そして新規挿入配列の転写・クロマチン制御について、統合的な解析を行う。
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