研究課題/領域番号 |
26660009
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
佐藤 浩之 東邦大学, 理学部, 教授 (80187228)
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研究分担者 |
藤崎 真吾 東邦大学, 理学部, 教授 (70190022)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ストロンチウム / ファイトレメディエーション / オオハネモ / 生物濃縮 |
研究実績の概要 |
2011年3月の福島第一原発事故の発生直後、千葉県銚子市犬吠埼で数種の海藻類を採集して含有する放射能を測定した結果、海産大型緑藻であるオオハネモが極めて高い放射能を有したのみならず、多くの海洋元素、特にストロンチウム (Sr) などのアルカリ土類金属を高度に生物濃縮していることを見出した。 本研究では、まずオオハネモが持つSr取込み活性を解析し、その高度生物濃縮機構に関与するトランスポーター分子や、金属原子の毒性を緩和するタンパク質、ファイトケラチン様分子の同定を試みた後、これらの遺伝子をクローニングして陸上植物へ遺伝子導入し、土壌中の放射性Srのファイトレメディエーターとしての遺伝子組換え植物を作出して評価を行うことを最終目的としている。平成27年度はまずオオハネモのSr取込み活性を放射性Sr-85を用いて解析し、取込み速度や、取込まれたSrの細胞内局在性、およびSr含有化合物の化学的性質を解析した。その結果、オオハネモは乾重量1 kgあたり1日でおよそ0.13gのSrを海水から細胞内に取込むことを明らかにした。取込まれたSr-85の多くは細胞質・液胞画分に分布し、多くは透析膜を通過する化合物と結合していることを見出した。これらの研究成果は BioMetals 誌で発表した。現在、この低分子量化合物の性質を詳細に解析しており、いくつかの興味深い性質を明らかにした。また、細胞質・液胞画分に存在する高分子量Sr含有化合物の存在も検出しており、候補として精製された30 kDaのタンパク質の配列を決定してそのcDNAクローニンを行った。現在、そのSr結合能について解析を行っている。さらにEST解析から得られた金属結合モチーフを多数有する数種のタンパク質の金属結合能も併せて解析している。さらに、オオハネモの細胞膜に存在する主要な膜タンパク質のcDNAクローニングを試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平成26年度内にオオハネモへのSr取込み活性を解析し、その細胞内分画の結果から、主要なファイトケラチン様Sr係留分子の性質を解析することを1つの目的とした。研究遂行の結果、得られた成果をまとめ、BioMetals誌へ査読付き原著論文として刊行した。また、膜タンパク質に存在するトランスポータータンパク質に関しては、未だ確実なタンパク質の同定には至っていないが、現在プロテオームの解析をさらに進めているところである。またEST解析の結果から、現在までに2,000個を超えるcDNAの配列を取得し、そのなかで比較的発現量が多く、また多数の金属結合モチーフを分子内に有する複数のタンパク質cDNAの取得に成功した。現在、大腸菌中で発現させたこれらのタンパク質のSr結合活性について解析を進めている。 オオハネモの細胞液中のファイトケラチン様Sr係留分子に関しても、その化学的性質の解析を進めている。放射性Sr-85をオオハネモに取込ませて細胞液を回収して解析したところ、その多くは陽イオン交換体に吸着された。これが無機イオン態のSr-85かどうかを調べるために、硫酸ナトリウムを添加したところ、SrSO4として沈殿をしない画分の放射能が高く、多くのSr-85が無機態ではなく、ファイトケラチン様Sr係留分子に結合していることが明らかとなった。また、陽イオン交換樹脂からの溶出パターンを解析したところ、無機体のSr-85と、係留されたSr化合物とで溶出塩濃度が異なることを見出した。今後はこの性質などを利用して、ファイトケラチン様分子の精製を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
27 年度以降は 26 年度の研究成果を踏まえて、それらをさらに発展・深化させる。具体的には、まず細胞膜に存在すると予想されるSrのトランスポーター分子の同定およびその遺伝子クローニングを目指す。現在、細胞膜中の主要な数個の膜タンパク質の配列決定を完了しているので、引き続き他のタンパク質の配列決定を試み、それらの遺伝子クローニングを試みる。 また、細胞液中に存在するSr係留化合物に関しては、二層分配法や各種クロマトグラフィー技術を用いて単離精製し、その構造解析や発現解析などを行う予定である。また、細胞内液から高分子量のSr結合物も検出しており、この画分に存在するおよそ30 kDaのタンパク質についても、そのSr結合活性を解析する。また、EST解析の結果から、分子内に極めて多数の金属結合モチーフを有するタンパク質を数個見出しており、今後さらにEST解析を進めて金属結合モチーフを有する新規タンパク質cDNAの探索を行う。これら異なるアプローチによって得られた数多くのタンパク質については、それぞれ遺伝子クローニングを行ったのち、大腸菌中で発現させてSr-85の結合活性などを検討する。 それらタンパク質成分の活性が確認されたら、27年度後半にはそれらの遺伝子をまずシロイヌナズナに導入して表現系の解析を試みる。27年度後半から28年度には、シロイヌナズナで発現させる際に用いるプロモータ配列について、根で高発現するプロモータや植物体全体で高発現するものなどを検討して、植物の生育状態やストロンチウムの濃縮度を勘案して、ファイトレメディエーター作出のための基礎を固め、28年度にそれらの機能を評価する。また、28年度には低分子量のファイトケラチン様分子の構造決定を目指し、またその代謝経路の推定を試みる。
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