ニホンナシのみつ症は果肉が水浸状を呈する生理障害で、発生すると日持ち性の低下、褐変化をもたらすため、商品価値を著しく低下させてしまう。特に、主要品種‘豊水’は感受性が高いため、その原因解明が急務となっている。しかし生理障害はその性質上、連年に渡り安定的に発症するわけではないため、その原因遺伝子を明らかにすることは困難であった。そこで本研究では、‘豊水’の四倍体でみつ症が激しく発症することに着目し、原品種である二倍体との間で遺伝子発現プロファイルを詳細に比較することによって、みつ症発症の原因となる遺伝子の探索を行った。発現遺伝子の網羅的な比較には、‘豊水’の発現遺伝子の大半を搭載したマイクロアレイを用いた。‘豊水’四倍体では2013年~2016年に渡って、満開後120日目前後で安定的に激しくみつ症が発症した。一方、二倍体では150日前後に軽微に発症するにとどまった。‘豊水’四倍体と二倍体の果実についてマイクロアレイ解析を行った結果、四倍体では二倍体と比較し、みつ症発症前にガラクトシダーゼのような細胞壁構成成分の代謝に関わる遺伝子やエチレン生合成、老化に関わる遺伝子が強く発現していることが確認された。このことから、これらの遺伝子がみつ症の発症に関連することが示唆された。そこで、この結果を踏まえて、果実の成熟および糖代謝に関する遺伝子に着目し、複数年の果実と葉を用いてリアルタイムPCR法を用いて、より詳細な発現解析を行った。その結果、糖代謝に関わる細胞壁局在型酸性インベルターゼとスクロースシンターゼは、複数年において四倍体果実でみつ症の発症前に発現が上昇した。実際、みつ症が激しく発症した四倍体果実のスクロース含有量は、発症前から一貫して有意に低かった。これらの結果より、細胞壁や細胞内に存在しスクロース合成等の糖代謝に関連する遺伝子がみつ症の発症に強く関連すると考察した。
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