研究課題/領域番号 |
26660023
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
白武 勝裕 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (90303586)
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研究分担者 |
田淵 俊人 玉川大学, 農学部, 教授 (70188407)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ファイトリミディエーション / シックハウス症候群 / トマト / ホルムアルデヒド / イントログレッション系統 / グルタチオン / ホルムアルデヒド脱水素酵素 / ギ酸脱水素酵素活性 |
研究実績の概要 |
①イントログレション系統のホルムアルデヒド無毒化能力の検定(玉川大学担当) トマトの栽培種L. esculentumと野生種L. pennelliiのイントログレション系統,全74系統について,ホルムアルデヒド無毒化能力が高い系統=ホルムアルデヒド無毒化能力に関わるL. pennelliiのゲノム領域を持つ系統の選抜を行った.その結果,5番染色体の一部(27番系統),10番染色体の一部2カ所(61番系統,63系統と64系統の重複領域),11番染色体の一部(65系統と66系統の重複領域)の4カ所にホルムアルデヒド無毒化能力に関わるL. pennelliiのゲノム領域が存在する可能性を明らかになった.一方,L. esculentum,L. pennellii,L. cheesmanii,L. chilenseについて,葉の切片における,グルタチオン含量,ホルムアルデヒド脱水素酵素活性,ギ酸脱水素酵素活性を組織化学的に調査した結果,いずれにおいてもホルムアルデヒド無毒化能力と含量または活性に正の相関があることを明らかになった.
②遺伝子座の決定と候補遺伝子の絞り込み(名古屋大学担当) 上記の①において玉川大学が特定したホルムアルデヒド無毒化能力に関わる可能性のあるL. pennelliiの4つの遺伝子座(5番染色体の一部,10番染色体の一部2カ所,11番染色体の一部)に存在する遺伝子をデータベース検索したところ,それぞれ149個,241個,207個,121個の遺伝子が存在した.11番染色体の一部に座乗する121個の遺伝子について,トランスクリプトームデータベースを使ったL. esculentumとL. pennellii間の発現量の比較を行った.その結果,L. pennelliiで発現が2倍以上高い遺伝子として,pumilio-like,F-box protein-like,2-oxoglutarate/malate translocatorの3遺伝子を見出すことに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究は,全体として順調に進展した.
『①イントログレション系統のホルムアルデヒド無毒化能力の検定(玉川大学担当)』については,計画したイントログレション系統の中からホルムアルデヒド無毒化能力が高い系統を選抜する実験を問題なく完了した.グルタチオン含量,ホルムアルデヒド脱水素酵素活性,ギ酸脱水素酵素活性の組織化学的調査は,イントログレション系統の選抜が年度末にずれ込んだため,イントログレション系統での実験は行えなかったが,その親系統についての実験を終え,これらの含量または活性とホルムアルデヒド無毒化能力との間に正の相関があることを明らかにした.選抜したイントログレション系統についての同実験にも既に着手している.
『②遺伝子座の決定と候補遺伝子の絞り込み(名古屋大学担当)』については,イントログレション系統の選抜が年度末にずれ込んだことに加え,選抜されたホルムアルデヒド無毒化能力に関わる可能性のある遺伝子座が1つではなく4つであったため, 1遺伝子座についてのみ計画通りの実験を完了することができ,候補遺伝子3個を特定することができた.残り3遺伝子座についても,現在,解析中であり,1ヶ月以内に解析が完了する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究は全体として順調に進展したが,一部積み残しがあるため,この積み残しを27年度開始1~2ヶ月以内に完了させる.具体的には「イントログレション系統のグルタチオン含量,ホルムアルデヒド脱水素酵素活性,ギ酸脱水素酵素活性の組織化学的調査」と「選抜した未解析の3遺伝子座からの候補遺伝子の絞り込み」である.当初計画した27年度の研究計画は,状況の変化を踏まえて,以下のように実施する.
②遺伝子座の決定と候補遺伝子の絞り込み(名古屋大学担当):当初はF2分離集団を作出して遺伝子の絞り込むことを計画したが,候補遺伝子座4つ見つかり,それらのF2分離集団の作出労力が膨大であるため,データベース情報を駆使した発現解析,多型解析,そしてホルムアルデヒド無毒化能力が異なる複数のトマト系統における候補遺伝子の定量PCRによる絞り込みに方針を転換する. ③形質転換トマトの作出と評価(名古屋大学・玉川大学担当):上記②で絞り込んだ候補遺伝子について,L. pennelli由来のcDNAを過剰発現させるベクターを構築し,L. esculentum ‘マイクロトム’に形質転換する.形質転換体のホルムアルデヒド無毒化能力を検定し,候補遺伝子を評価する. ④ゼラニウムでの遺伝子発現の調査(名古屋大学・玉川大学担当):上記③の評価で有望な遺伝子が見出せた場合,ホルムアルデヒド無毒化能力が著しく異なるゼラニウムにおいても,同じ遺伝子が鍵であるかを次の実験で評価し,同じであればこの遺伝子をホルムアルデヒド無毒化能力の高い観賞用園芸植物の育種マーカーとする.すなわち,トマトで特定した鍵遺伝子のオルソログをホルムアルデヒド無毒化能力が高いゼラニウム系統と低い系統からクローニングし,両者にアミノ酸置換や欠損をともなう変異がないか,そして遺伝子発現量に違いがないか(定量PCRを実施)を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
玉川大学においては,予定通り全額の予算を執行した.一方,名古屋大学においては,イントログレション系統の選抜が年度末にずれ込んだことに加え,選抜されたホルムアルデヒド無毒化能力に関わる可能性のある遺伝子座が1つではなく4つであったため,それらの全解析が終わらず,その次に行う予定であった定量PCRやcDNAクローニングの実験にまでたどり着かなかった.このため,定量PCRやcDNAクローニングを行うための予算が次年度使用額として残った.
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次年度使用額の使用計画 |
前述のように,本年度積み残しの「選抜した未解析の3遺伝子座からの候補遺伝子の絞り込み」は,27年度開始1~2ヶ月以内に完了するため,この完了の後に,全ての候補遺伝子について定量PCRやcDNAクローニングを行う.このために26年度の残額(次年度使用額)を使用する.
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