研究課題/領域番号 |
26660026
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
米森 敬三 龍谷大学, 農学部, 教授 (10111949)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 園芸学 / カキ / タンニン |
研究実績の概要 |
カキは、果実内の異型細胞であるタンニン細胞の液胞にプロアントシアニジンのポリマー(縮合型タンニン)を多量に蓄積するために強い渋味を呈する。しかしながら、カキ果実内でのプロアントシアニジンの生成部位やタンニン細胞そのものの分化・発達過程に関する基本的な知見はこれまでにほとんど得られていない。本研究は、近年いくつかのモデル植物で、プロアントシアニジンの組織・細胞内局在性解析の報告があることから、それらの報告の手法を用いてカキ果実の縮合型タンニンの生成・蓄積機構を組織化学的に解明することを目的としている。 採択初年度の平成26年度の調査では、縮合型タンニンの局在性解析に有効であると報告されていた蛍光色素Oregon Green 488-conjugated gelatinが細胞壁と結合して強く蛍光を呈する結果が得られ、その特異性に疑問が生じたため、その有効性を検討することを平成27年度の第一目的として調査した。その結果、同じカキ属に属するが縮合型タンニンを蓄積しないロウヤガキ果実の切片をこの色素で染色すると細胞壁が強い蛍光を示したことから、この蛍光色素が縮合型タンニンだけに特異的に結合するわけではないことが示唆された。さらに、カキ果実切片から溶出する縮合型タンニンを含む溶液とこの蛍光色素を反応させると強い蛍光が観察されることから、縮合型タンニンとの結合は起こることは確認できたが、一方でこの色素で染色していないカキ果実の切片の細胞壁がこの蛍光色素の蛍光波長と類似した波長に自然蛍光をもっていることがわかり、この色素を用いた縮合型タンニンの組織内局在性解析が困難である可能性が高くなった。このため、今後はこの蛍光色素に頼らず、開花前のカキ果実での各組織内のさまざまな部位でのタンニン生成過程を経時的に組織・細胞レベルで調査することから、その発生・発達過程を解明することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題の当初の目的は、カキ果実の縮合型タンニンの生成・蓄積機構を組織化学的に解明することが出来る手法を開発することであったが、上述の通り、もっとも期待していた蛍光色素Oregon Green 488-conjugated gelatinでの組織化学的解析が困難であることを示唆するいくつかの結果が得られた。このことから、当初の実験計画を大きく見直す必要が生じたことが、達成度が遅れている第一の原因である。また、これに加えて平成27年4月より研究代表者が新たに開設された龍谷大学農学部に移動したことにより、これまでと同じサンプルを採取することの困難さや新たな大学に設置されているレーザー顕微鏡や蛍光顕微鏡などの実験機器の使用方法の不慣れさに起因したいくつかの問題が生じたことも、研究の遅れが生じた一因となっている。すなわち、カキ果実の試料を経時的に採取する計画であったが、予定通りにサンプル採取のための時間を調整することが出来ず、経時的な試料採取を断念した。また、共通機器である蛍光顕微鏡やレーザー顕微鏡の使用方法の習得にも時間を要し、試料観察が遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
当初期待していた新鮮切片を用いた蛍光色素Oregon Green 488-conjugated gelatinによるカキ果実の縮合型タンニンの生成・蓄積機構の組織化学的解析が困難であることが示唆されたので、その手法にかわり、固定・樹脂包埋した切片を用い、果梗やガク片などの果実以外の部位でのプロアントシアニジンおよび縮合型タンニンの蓄積過程を経時的に調査し、果実(子房)内でのタンニン蓄積過程との関連を組織的および化学的に調べることで、果実内での縮合型タンニン蓄積機構を考察する。さらに、果実(子房)内でのタンニン細胞の発生過程を詳細に調査することで、その発生機作の解明にせまる。さらに、Brillouetら(Annals of Botany, 112: 1003-1014, 2013)は、数種の維管束植物を用いた縮合型タンニン蓄積の組織学的観察から、tannosomeと名付けた縮合型タンニンを最初に蓄積する小胞の存在を報告していることから、この小胞体とタンニン細胞分化の関連を調査するため、カキ果実(子房)でのtannosome観察の可能性についての検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、蛍光色素Oregon Green 488-conjugated gelatinによるカキ果実の新鮮切片での縮合型タンニンの局在性解析を計画しており、頻繁に蛍光顕微鏡を使用する必要が考えられたため、共通機器ではなく、研究代表者の実験室の顕微鏡に蛍光装置を購入することを考え、そのための経費としての使用を考えていた。しかしながら、前述のように、この蛍光色素を用いる実験系の構築が困難であることが予想されたため、蛍光装置の購入を見合わせた。さらに、当初予定していた経時的なサンプル採取が出来なかったため、その後の試料作製のための試薬等の経費を使用しなかった。これらのことから、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、龍谷大学での勤務が2年目となるため、カキ果実の試料を経時的に採取するための日程調整が可能であると考えており、甘ガキおよび渋ガキ品種を特に開花前から開花後にかけての早い時期を中心に採取し、前述のように固定・包埋後、部位別でのプロアントシアニジンおよび縮合型タンニンの組織化学的解析を計画している。このため、その実験のための試薬・消耗品等の経費として使用する予定である。なお、次年度実験での実験室顕微鏡への写真撮影装置の必要性の有無についても検討し、購入が必要な場合はその経費として使用する。
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