カキは、果実柔細胞中に異型細胞であるタンニン細胞を有し、この細胞の液胞内にプロアントシアニジンのポリマー(縮合型タンニン)を多量に蓄積するため強い渋味を呈する。しかしながら、カキ果実内でのプロアントシアニジンの生成部位やタンニン細胞そのものの分化・発達過程に関する基本的な知見はこれまでにほとんど得られていない。本研究は、このカキ果実の縮合型タンニンの生成・蓄積機構を組織学的に解明することを目的としていた。 この目的のため、当初の実験計画では縮合型タンニンの局在性解析に有効であると報告されていた蛍光色素Oregon Green 488-conjugated gelatinを用いて、カキ果実中での縮合型タンニンの生成・蓄積機構を組織化学的に調査する予定であった。しかしながら、カキ果実ではこの色素の有効性が認められず、タンニン生成部位を組織的に特定することができなかった。そこで、開花前の果実(子房)でタンニン細胞が形成されていく過程を組織学的に調査するとともに、果実以外の部位でのタンニン細胞の形成とその分布を明らかにすることで、果実でのタンニン細胞形成過程の基礎的知見を得ることを試みた。その結果、タンニン細胞はカキ果実中では子房が発達する以前から花床部には存在し、開花前には可食部となる子房壁(中果皮)に存在していることが確認できた。さらに、タンニン細胞へのタンニン蓄積とともに、果実発育初期からカキのプロアントシアニジン合成に関与すると考えられる転写因子の発現が認められた。今後、果実内での部位別の発現差異などを調査することで、タンニン生合成部位の特定が期待できる。なお、果実以外の部位からプロアントシアニジンが果実へ輸送される可能性に関しても、今後検討する必要がある。
|