耐寒性植物組織が凍結温度で生存するには、細胞内の水の凍結回避と細胞外の特定部位での凍結開始が初期反応として極めて重要である。しかし、植物組織に存在する氷核活性物質(凍結開始作用がある)はこれまで全く未解明であった。担当者は、髄から凍結開始するレンギョウ枝髄から氷核活性物質を初めて単離同定し、シュウ酸カルシウム(以下CaOXと略)であることを解明した。本物質の氷核活性の報告はないため、活性特徴について詳細な解析を行った。 1. レンギョウ枝髄から本物質の大量精製法を確立(細胞壁分解酵素処理)した。定量的な氷核活性測定法(試験管法)を確立し、既知の氷核活性物質(ヨウ化銀等)と活性を比較した。物質添加量と氷核活性の関係解析から、本精製物質は微量でもヨウ化銀と同等の-2℃の活性を持つこと、熱処理や乾燥処理等にも安定なことが判明した。 2. レンギョウ枝髄から単離したCaOX結晶は、粉体X線回折による本結晶1,2,3水和物の標品との比較解析、昇温熱分析により、1水和物のみから構成されると予想された。 3. 本年度行った走査型電子顕微鏡による結晶観察とX線回折の結果もこの結果を支持した。CaOXの2及び3水和物の結晶形は電子顕微鏡観察でも全く異なった結晶形態を示し一方、氷核活性は高濃度で添加しても著しく低かった(-10℃以下)。試薬として売っているCaOX1水和物、合成品の同結晶とレンギョウより単離した同結晶の3つを比較すると、レンギョウ単離品>合成品>試薬の順でレンギョウ由来結晶の氷核活性が最も高かった。これは結晶サイズ等が最も均一であることも一因と考えられた。 4.世界で初めて同定された植物由来の氷核活性物質の詳細が明らかになった。このような一定形を持つCaOX結晶の生体内での合成機構や本結晶上での氷晶発生機構の解析が重要である。本物質を水等の凍結促進に有効利用する方法も探っていく必要がある。
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