研究課題/領域番号 |
26660033
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
寺岡 徹 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60163903)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マイコウイルス / 病原性変異 / 簡易検出法 |
研究実績の概要 |
1. マイコウイルスMoCV1のイネいもち病菌への感染がイネいもち病菌の病原性をゲノム変異を伴わずに変化させていることを確認するために、昨年度と同様に、自然感染親株(WI)それからから得たウイルスフリー化株(WF)、その株にハイグロマイシン耐性変異を導入したフリー化株(HF)を作出し、加えてHF株と親株WI株との菌糸融合により人工再感染株(HI)を作出した。昨年度と同様に、病原性変異が観察された様々な国際イネ判別品種との組合せにおいて、親株WI株がフリー化(WF及びHF)することにより、病原性が変化するか、再感染させたHI株では元の親株WI株の病原性に可逆的に復帰するか、を繰り返し再実験して、我々の見出した現象を再検証し、昨年度の同様の成果を確認した。それら結果から、マイコウイルスMoCV1は特定の病原性レースを様々に変異させえることが示唆された。 2. 上述の変異機構として、イネ-いもち病菌相互作用を決定するイネいもち病菌の非病原性(Avr)遺伝子の発現量について、その遺伝子構造が明確になっているAvr-Pikを材料にreal-time RT-PCRで発現量解析したところ、感染性を変化させるような発現量の変化が実証され、MoCV1がいもち病菌の様々な遺伝子の発現制御に関与していることが推察された。 3. 我々が開発したMoCV1の簡易検出法であるone-step RT-PCR法、RT-LAMP法と従来のdsRNA抽出と電気泳動解析の併用により、日本国内のいもち病菌にもMoCV1は広く昔から分布していること、ゲノム配列からも近縁であること、既報のMoV1、MoV2と重複感染しているもの、新規のエンドロナウイルスの感染も実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
MoCV1感染がイネいもち病菌の病原性レースを変異させえることが再実証され、その変異は無方向性ではなく、方向性があることが推定された。加えて、既に開発したOne-step RT-PCRによるいもち病斑からのMoCV1の直接的な検出法以外に、RT-LAMP法による圃場現場での検出法も開発・発表し、まもなく報文化され公表される。従来の電気泳動によるdsRNA検出法と併せて、日本各地(現時点では主に北陸地方、東北地方ならびに九州地方)のいもち病菌保存株とMoCV1を見出した山形県、秋田県のいもち病発生圃場からも、MoCV1ならびに他のマイコウイルスの重複感染も検出できた。これらのことから、本ウイルスは以前から広く日本にも分布していたことが実証され、日本国内のいもち病菌レース分布調査とMoCV1株を含めたマイコウイルス分布との相関を動態解析できる道が開かれた。
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今後の研究の推進方策 |
開発・公表したMoCV1簡易検出法を活用して、日本国内のMoCV1と他のマイコウイルスの分布とレース分布の相関をさらに調査する。と同時に、直接イネのいもち病斑から、より強い病原力抑制力を持ち、病原性を強く変化させる新規なウイルス株を、基準いもち病菌株(例えば病原性の安定したP2 株)に獲得・確保できる手法の開発を目指す。 現在、MoCV1ゲノムの5つのセグメント(ORF)を個別に導入したいもち病菌形質転換株の作出を昨年度から試みており、どのセグメント(ORF) がそれらの機構に深く関わっているかの解析に向けて精力を傾注する。そうした成果から、MoCV1の病原性変異機構、病原力抑制機構をより明確にする。 最終年度として、そうした成果を国内外に発表、公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度はできる限り、日本各地のイネいもち病病斑を採集、確保する目的に費やし、消耗品を含む物品費の支出はできる限り抑制した。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年の平成28年度はイネいもち病発生圃場調査費用ならびに本質的課題内容のMoCV1の病原性変異機構の解明に向けた資材確保、公表に本年度の残額を含めて使用する予定である。
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