研究課題/領域番号 |
26660044
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
武部 聡 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (20227052)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生物農薬 / 水生有害生物 / 選択毒性 / タンパク質の不溶化 / Bacillus thuringiensis |
研究実績の概要 |
水生有害生物の駆除を目的として、細胞損傷作用部位に他のタンパク質の水生動物細胞認識部位とBacillus thuringiensis (Bt)由来のタンパク質結晶化因子(Cterタグ)を融合したタンパク質毒素の作製を試みている。スクミリンゴ貝やザリガニなど、水生有害生物のイネ等に対する被害は深刻であるが、これまで有効な駆除法は無かった。本法は、結晶化因子により水溶性タンパク質を不溶化することで毒素の濃縮を可能にし、それにより標的生物に致死量を摂取させることができる。さらに、不溶化することで毒素の流失を抑え、不必要な環境汚染を防ぐことができる斬新な手法である。 平成26年度は、タンパク質毒素の各パーツの調製、発現系の構築と標的有害生物に対する毒性試験法の検討を行った。タンパク質毒素は摂食により消化液の働きで可溶化され、毒に変化して標的細胞表面にある受容体と結合する。受容体との結合能はタンパク質毒素の選択毒性を決める重要な因子の一つと考えられる。そこで、本研究室で収集したタンパク質から標的有害生物に毒性を示すものを選抜し、これらのタンパク質の欠失変異体を作製して受容体結合に必要な最小部位を検討している。 細胞損傷作用部位は、細胞膜を貫通して小孔を形成する毒素の膜貫通部位を用い、小孔形成に必要なオリゴマー化等の条件を検討した。 発現ベクターは、pPcyt1Aを改良した。これはBtの胞子形成期に高い転写活性を示すプロモーター配列およびSD配列-クローニング部位-転写終結領域を持つBt細胞用発現ベクターで、本研究室で作製した。このベクターのクローニング部位上流に開始コドンとCter-タグを、下流にGST-タグを組み込んだベクターを構築した。水溶性タンパク質遺伝子を連結しBt細胞に導入すると胞子形成期に融合遺伝子が強く発現し、細胞内に融合タンパク質の結晶が形成されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、水生有害生物を効率的に駆除でき、さらに使用に際して安全かつ環境負荷の小さい微生物農薬の開発を目的としている。作製するタンパク質毒素は、ジフテリア毒素など標的細胞に対する作用機構がよく研究されているタンパク質毒素の細胞損傷部位に、水生動物細胞の受容体認識部位とタンパク質結晶化因子をつないだ融合タンパク質である。平成26年度は、まず、融合タンパク質のBt細胞での発現系を確立した。クローン化した外来遺伝子のペプチドにタンパク質結晶化因子のタグが付くようにした発現ベクターを構築し、これを用いてBt細胞内で発現させると水溶性タンパク質が結晶化することを確認した。次に、タンパク質毒素の細胞損傷部位は、ジフテリア毒素の他に細胞膜に小孔を形成する毒素の作用部位について検討している。また、水生動物細胞の受容体認識部位は、水生動物に食毒性を示すタンパク質をBtが産生するCryタンパク質から選抜しており、欠失変異体やアラニンスキャニングなどの手法で受容体認識部位を調べているところである。 以上のことからタンパク質毒素の各パーツについては見通しが立ち、水生動物細胞認識部位-損傷作用部位-結晶化タグが連結した融合タンパク質を調製して生物検定を本格的に始める体制が整った。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度研究計画のうち、融合タンパク質毒素の調製とそれを用いた生物検定は平成27年度にずれ込むが、融合タンパク質毒素の各パーツの準備が整い次第、作業に入る体制となっているので、計画の変更等は考えていない。 細胞損傷作用部位はジフテリア毒素を用いる予定であるが、実用化等を考えてヒトに作用しない毒素の利用も検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた実験のうち、融合タンパク質の調製とそれを用いた生物検定を本格的に行えなかったため、物品費の一部が次年度に繰り越された。また、論文投稿が年度内に間に合わなかったため、その他に繰越金が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越された実験は平成27年度に行う。また、論文については現在準備中であり、平成27年度内に投稿する予定である。したがって、平成27年度は繰越金を含めて計画通り執行できる予定である。
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