研究課題
東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故によって大気中に放出された放射性物質は福島県を中心に広範な地域に環境汚染をもたらした。放射性CsはCs-137とCs-134が1:1の比で放出され、種々の機関からそれぞれ約10 PBqと報告されている。現在、最も問題となるのは物理的半減期が長いCs-137が長期にわたって存在し、農産物を介して生体内に取り込まれることである。生体内除染はこれまで吸着材を中心に行われてきたが、低レベルの放射性Csには効果がないことが報告されている。本研究の目的は微生物による生体からの効果的除染方法の基盤を確立することである。原発事故後安楽死された放れ牛の筋肉から加熱抽出によって放射性Csを含む試料を調整した。また、環境材料(土壌)から標準試料を作成し、検量線を作成した。れによって、福島原発事故後時間経過による減少していく放射性Csを事故当時の時間軸に戻して変化を追うことができた。CsはKと似た挙動を示すとされている。 観測されている「濃縮」は環境中と細胞内での電解質濃度の差に由来し、Kに対して際だってCsを濃縮する様な生物種は観測されていない。代謝に伴って用いた細菌が単に放射性Csを吸着しているか、あるいは取り込んでいるかを検証するために死菌と生菌での比較を行った。結果として死菌での吸着率は1%未満である一方、生菌は積極的に放射性Csを取り込むことがわかった。腸内フローラ構成細菌は放射性Csをよく取り込み、人での腸内細菌としてBifidobacterium longumがプロバイオティクス細菌の候補として有用であることが示唆された。腸管内でよく増殖し、糞便として排出することが低レベルの放射性Cs排出に効果的であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
1.初年度において、福島原発事故由来の放射性Cs含有試料の調整を行った。この試料を培地に10%添加することで取り込みあるいは吸着実験を可能とするシステムを構築することができた。さらに、環境材料(土壌)から標準試料を作成し、検量線を作成することで菌体および残存培地の放射性Cs濃度を測定することができた。2.プロバイオテクスならびに腸内フローラ構成細菌について放射性Cs取り込み率を比較した。この結果に基づき、有用微生物の候補を選ぶことができた。3.死菌と生菌を比較することで生菌による積極的な取り込みが明らかとなった。異常のことから本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
種々の食品において、カリウム含有量は炎光光度計とカリウムイオン電極を用いて測定した場合、両者はよく一致する。本研究では、測定が容易なカリウムイオン電極を用い、カリウムが放射性Cs取り込みに及ぼす影響を調べる。カリウム含有量は食品で大きく異なるため、試料中のカリウム濃度が高ければ取り込み阻害が起こることになる。ブロバイオティクス細菌の培養条件の検討を含めて、Kの影響を検討する。固形培地では培地表面に増殖した細菌を集菌し、残存培地と等量の蒸留水とに混合した菌液の放射性Cs量をゲルマニウム測定装置で測定することによって取り込み率を求めた。液体培地については固形培地の場合と同様に放射性Csを含有する培地に菌を摂取し、24-48時間培養後、遠心分離によって細菌と培地に分けて、線量を測定した。同様の条件でプルシアンブルー、アルギンサン塩などの吸着材の効果の判定を行う。また、これらの吸着剤による阻害を微生物取り込み阻害から判定する方法を検討する。
予備実験として予定していた吸着剤との比較試験を動物実験を行わなかった。また、次年度のおける国際学会発表のための準備として予算を確保する必要があった。
1.国際放射線影響学会で成果を発表する(旅費として使用)2.吸着剤(プルシアンブルー等)との比較を行う。3.動物実験を行うための基礎実験を行う。
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Animal Science Journal
巻: 86 ページ: 120-124
doi: 10.1111/asj.12301