研究課題/領域番号 |
26660058
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
宮永 一彦 東京工業大学, 生命理工学研究科, 助教 (40323810)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 微生物叢解析 / 16S rRNA遺伝子 / 次世代シーケンス解析 / 土壌細菌 / 放線菌 |
研究実績の概要 |
本研究では,様々な環境から岩石を採取し内部の微生物叢について解析することを目的としている。近年の微生物叢解析は細菌由来の16S rRNA遺伝子配列を指標とする遺伝子工学的手法が用いられている。昨年度は,岩石表面を界面活性剤で洗浄して表面上の細菌の影響を排除した後,粉砕したものからゲノムを抽出することで内部に存在する細菌由来のDNAを試料として調整した。しかし,活性汚泥や下水など他の環境サンプルと同様の方法を用いても,PCRに十分なDNA量を毎回抽出することができなかった。一部の試料からしか必要DNA量が得られなかった理由として,まず,試料内に存在する微生物の絶対量が非常に少ないこと,あるいは,微生物が破砕されたとしても,細胞内から溶出したゲノムが粉砕岩石表面に吸着してしまい,溶液中のゲノム濃度が下がってしまうことなどが考えられる。更なる改善点として,土壌細菌からのDNA抽出の際,スキムミルク添加により,土壌粒子へのDNAの吸着を抑え回収率が上がる,という報告を参考にし,DNA抽出効率を上げる予定である。また,PCRの感度を考慮すると,DNA量が非常に少ない場合でもPCR阻害物質がなければ,標的遺伝子(16S rRNA遺伝子)の増幅は可能であると予想される。今後,PCR前に抽出サンプルの精製なども検討する。 キャンパス内から採取した岩石内よりゲノムを抽出し,次世代シーケンサーによる16S rRNAメタゲノム解析を行った。その結果,放線菌綱(Actinobacteria),γプロテオバクテリア綱(主にキサントモナス属),αプロテオバクテリア綱(主にリゾビウム属,スフィンゴモナス属)がそれぞれ,54%, 14%, 9%存在していた。これらは,一般的な土壌細菌であり,今後,普遍性についても議論する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに試料中に微生物が存在し,それら由来のゲノムも存在していることを明らかにしているが,その量は非常に少ない。今年度は,微生物量が安定して得られる純粋菌および複合微生物系の代表としての活性汚泥に用いる手法を試料からのゲノム抽出に適用した。しかしながら,試料によっては得られるDNA量が非常に少なく,PCRがうまくいったりいかなかったりと,当初の予想に反し,全ての岩石試料からゲノムを抽出できるような汎用性の高い手法の確立までは至っていない。本研究は,最終的には採取場所の異なる試料の微生物叢を比較することを想定しており,得られた結果にバラツキや差異が認められた場合,実験誤差によるものではなく,確実に試料の差であることを示す必要があり,更なる精緻な実験を行う必要があると考えられる。 一方,16S rRNA遺伝子のPCR増幅が成功する試料もあった。増幅することが出来れば,そのPCR産物を調整した後に専門業者に次世代シーケンス解析依頼するのは容易である。今年度は,一部の試料由来の16S rRNA遺伝子メタゲノム解析を行った。の結果,放線菌綱(Actinobacteria),γプロテオバクテリア綱(主にキサントモナス属),αプロテオバクテリア綱(主にリゾビウム属,スフィンゴモナス属)がそれぞれ,54%, 14%, 9%存在していた。これらは,一般的な土壌細菌であり,αプロテオバクテリアは窒素固定能を有するものが多かった。今後,サンプル数を増やし(同一箇所での個々の岩石,異なる採取場所など),微生物群集の統計的解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
土壌細菌からのDNA抽出の際,スキムミルク添加により,土壌粒子へのDNAの吸着を抑え回収率が上がる,という報告を参考にし,DNA抽出効率の改善効果を検討する予定である。更に,PCR阻害物質の影響を除くために,岩石からのゲノム抽出液を簡易カラム精製にかけ,純度の高いゲノム溶液の調整を試みる。今後はこれらの手法を組み合わせ,様々な場所に存在する岩石について適用し,実環境中で生存している微生物叢の解析を行う予定である。まず最初に,環境因子の影響が少なく微生物叢の違いが小さいと考えられる岩石試料について,再現性の確認おこなう。つまり,同じ場所に存在する同種の岩石間では内部の微生物叢の差が小さいと考えられるため,統計解析による評価を行う予定である。更に,岩石由来の微生物を固体寒天培地上で培養を行い,出てきたコロニー全てをリン酸塩緩衝液に懸濁させ,培養可能な微生物群集の評価も行う。 また,16S rRNA遺伝子を用いた微生物叢解析だけでは各種微生物の機能を知ることは不可能である。そのため,16S rRNA遺伝子解析により岩石内の存在が明らかとなった主な微生物種(例えば,環境を問わず普遍的に存在する種,あるいは特殊な環境にのみ存在する種,など)に着目し,代謝に係わる機能遺伝子等についてもデータベースを基にプライマーを設計し,検出および定量を行っていきたいと考えている。さらに,回復(復元)培地を用いて培養可能な種の分離・同定を行い,それらが16S rRNA遺伝子解析における生菌と相関があるかを調べる。また,培養可能な菌種の環境ストレス(温度,栄養条件など)に対する増殖特性・生存特性についても解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時点では,今年度に様々な環境から岩石を採取し内部の微生物叢解析を行う予定であったが,微生物叢解析手法が確立しない段階で解析をおこなった場合,結果の解釈が困難になるものと考え,まずは解析手法の確立に注力した。そのため,試料数が限られており業者に依頼解析(16S rRNA遺伝子の次世代シーケンス解析)の回数が当初の予定よりも少なかった。さらに,試料採取のための移動による交通費も,今年度は研究機関周辺からの採取であり,大きくかからなかった。また,本研究にのみ用いるような特殊な試薬・消耗品類や高額な測定装置は特になく,現有の試薬・消耗品,測定装置を共有可能な実験が主であったことも,本年度の支出が予算より少なかった一因であると考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
概要でも述べたが,目的試料である岩石内の微生物量は非常に少なく,昨年度,活性汚泥等の環境試料を用いて最適化したゲノム抽出方法を行ったところ,全ての試料について適用することはできなかった。そのため,予定していた次世代シーケンスの受託解析の回数が予定より少なくなってしまった。次年度は,抽出方法を更に改良し,効率よく抽出およびPCRを行う実験系を構築する予定である。そしてその手法を用いて,各環境中の岩石内の微生物叢解析をおこなう予定である。試料数が増えるため,今年度予定していた16S rRNA遺伝子の次世代シーケンスの受託解析に用いる予定である。また,成果発表を行う予定である学会発表に際し,学会開催地で試料を採取するなど,採取場所にも多様性を持たせるようにしたいと考えている。
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