研究課題/領域番号 |
26660059
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
保坂 毅 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (50391206)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 二次代謝 / 糸状菌 / 抗生物質 / 薬剤耐性変異 / ホルミシス |
研究実績の概要 |
リボソーム攻撃性抗生物質を活用した遺伝学的および生理学的に異なる二つのアプローチで糸状菌の潜在的二次代謝能を引き出せることを実験的に証明することに取り組んだ。加えて,その仕組みを生化学・分子生物学的な面から解析するための解析にも着手しはじめた。なお本研究は,当初の計画に基づき,以下の二つを重点課題として実施した。各課題に対する具体的な実績を以下に述べる。 課題1: 糸状菌の潜在的二次代謝能を引き出す薬剤(リボソーム攻撃性抗生物質)耐性変異の探索。紅麹菌 Monascus pilosus NBRC 4520 から 80 菌株のハイグロマイシン B 耐性変異株,および 30 菌株のシクロヘキシミド耐性変異株を取得した。これらのうちハイグロマイシン B 耐性変異株の 1 菌株が親株に比べて高い二次代謝能を有することを明らかにした(二次代謝能の評価は赤色および黄色色素の生産量を指標にした)。このハイグロマイシン B 耐性変異株における変異遺伝子を特定するために,次世代シーケンス技術による全ゲノム解析を実施したところ,同変異株が MFS (major facilitator superfamily) transporter に点変異を有することを見出した。 課題2: 糸状菌の潜在的二次代謝能を強力に活性化するリボソーム攻撃性抗生物質の探索とその活性化現象の解析。紅麹菌 NBRC 4520 株を最小生育阻止濃度(MIC, 同菌に対するハイグロマイシン B の MIC は 0.08 mg/mL)よりも低濃度(MIC の1/320 ~ 1/40 濃度)のハイグロマイシン B 存在下で培養すると,同菌株の色素生産量が劇的に増加し,その生産量が最大で添加時の 8 倍に達することを明らかにした。ハイグロマイシン B 以外のリボソーム攻撃性抗生物質による二次代謝活性化効果についても検討しはじめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1[糸状菌の潜在的二次代謝能を引き出す薬剤(リボソーム攻撃性抗生物質)耐性変異の探索]は,おおむね順調に進展している。最大のポイントは,初年度の最大目標に掲げていた「紅麹菌のハイグロマイシン B 耐性と二次代謝能の向上に関わる変異遺伝子の候補の特定」を達成できたことにある。現在,この成果を含めた原著論文の作成・投稿準備を進めている(Applied Microbiology and Biotechnology 誌に投稿予定)。一方,課題2(糸状菌の潜在的二次代謝能を強力に活性化するリボソーム攻撃性抗生物質の探索とその活性化現象の解析)については,ハイグロマイシン B に紅麹菌の二次代謝能を向上させる作用があることを実証できたものの,同作用が紅麹菌以外の糸状菌にも認められるか否か,さらには,ハイグロマイシン B 以外のリボソーム攻撃性抗生物質にも強い二次代謝活性化作用が認められるか否かは,未だ明らかにできていない。現在,これらの点については,本格的に実験を実施しているため,問題にはならない程度の遅れと捉えている。 以上の理由を総合的に判断し,上述したような自己点検評価に至った。
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今後の研究の推進方策 |
課題1: 糸状菌の潜在的二次代謝能を引き出す薬剤(リボソーム攻撃性抗生物質)耐性変異の探索。初年度(平成 26 年度)に特定した紅麹菌 Monascus pilosus NBRC 4520 におけるハイグロマシン B 耐性変異(MFS : major facilitator superfamily transporter における点変異)の生理・生化学・遺伝学的特性を解析するとともに,RNA シークエンス技術によるトランスクリプトーム解析や電気泳動法によるプロテオーム解析による網羅的解析を実施し,同変異と二次代謝活性化との因果関係の解明を目指す。さらに,同変異の二次代謝活性化効果を紅麹菌以外のいくつかの糸状菌で検証し,その普遍性の有無を明らかにすることにも取り組む。一方,ハイグロマイシン B 耐性変異以上に強力な二次代謝活性化作用がある薬剤耐性変異の探索も当初の予定通りに実施する。 課題2: 糸状菌の潜在的二次代謝能を強力に活性化するリボソーム攻撃性抗生物質の探索とその活性化現象の解析。ハイグロマイシン B による二次代謝活性化作用を紅麹菌以外の糸状菌を用いて検証する。一方で,ハイグロマイシン B 以上に強い二次代謝活性化作用を有するリボソーム攻撃性抗生物質の探索にも重点をおき,抗生物質ホルミシスの原理の活用が糸状菌の潜在的二次代謝能を引き出すためのアプローチとして極めて有効であることを実験的に証明する。加えて,それらの現象の仕組みを生化学および分子生物学的な面から解析するための実験系の確立にも取り組む。 課題1 および 2 の成果を国内の学会で発表する(2 件を目標)。加えて,それらの内容をまとめた原著論文を作成し,専門学術誌(投稿先は Applied Microbiology and Biotechnology 誌を予定)への掲載を達成させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,初年度に糸状菌を培養するための恒温チャンバーおよびシェーカー(振とう装置)を購入予定であったが,研究室現有の機器で実験可能であったため,購入を見送った。従って,次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度以降の実験計画を踏まえると,当初の予定通り糸状菌を培養するための恒温チャンバーおよびシェーカー(振とう装置)の増設が好ましい。従って,生じた次年度使用額については平成27年度請求額と合わせて,その購入費用の一部に充てる予定である。
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