紅麹菌 Monascus pilosus NBRC 4520 の親株と赤色色素高生産ハイグロマイシン B 耐性変異株[Major Facilitator Superfamily(MFS)トランスポーター遺伝子に 1 塩基挿入変異を有する]を用いた種々の生理・分子生物学的解析から,紅麹菌で認められたハイグロマイシン B 耐性と二次代謝活性化は MFS トランスポーターの発現低下に起因することが判明した。これらの結果から,バクテリアと糸状菌とでは全く異なる仕組みでリボソーム攻撃性抗生物質耐性の表現型を獲得し,二次代謝の活性化が起こることが明らかになった。 一方,リボソーム攻撃性抗生物質を用いた遺伝学的手法(抗生物質耐性変異の活用)および生理学的手法(抗生物質の濃度依存的効果:ホルミシスの活用)により糸状菌以外の真核微生物の潜在能力を引き出すことにも有効か否かを検討した。その結果,ジャポニカス分裂酵母 Schizosaccharomyces japonicus の親株と薬剤耐性選抜法によりこの親株から取得した153 菌株の G418 耐性変異株を用いた種々の生理学的解析から,G418 耐性変異には分裂酵母の性質[細胞の形状,耐糖性(高濃度グルコース存在下での生育),耐凍性,発泡性,および代謝産物の生産性]を劇的に変化させる作用があることが明らかになった。そのような性質をもたらす G418 変異の同定には至らなかったが,以上の結果から,リボソーム攻撃性抗生物質を活用した遺伝学的手法が分裂酵母の潜在能力を引き出すことにも有効であるという見通しを新たに得ることができた。
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