研究課題/領域番号 |
26660063
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
白石 英秋 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (90202118)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / ギ酸 / ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸 |
研究実績の概要 |
本研究は、藍藻のモリブデン補因子(MoCo)の生合成経路を調べる過程で見出された新規酵素と藍藻のアルカン生合成経路との関わりについて解析するものである。MoCoはギ酸脱水素酵素や硝酸還元酵素などの酵素の活性中心を構成しているが、藍藻では、MoCo 生合成経路の遺伝子のうち、moaD 遺伝子についてだけは同定できない藍藻種が多数存在する。そこで、そのような藍藻である Arthrospira platensis のゲノム・ライブラリーを作成し,ギ酸脱水素酵素の活性を指標とするプレート・アッセイ法で大腸菌のmoaD突然変異体を相補するクローンの単離を行った。多数のクローンが単離されたが、それらには moaD に特徴的な構造は見出されず、NAD+/NADP+ 結合モチーフを持つタンパク質の遺伝子であった。この遺伝子は moaD 突然変異による硝酸還元酵素活性の欠損は相補しておらず、ギ酸脱水素酵素の欠損の相補をプレートアッセイを用いて調べた時のみ表現型の相補がみられた。このことから、この遺伝子の産物はギ酸の代謝に関連した活性を持っているものと考えられた。この遺伝子の産物を大腸菌で発現させて活性を調べたところ、このタンパク質は NADP+ から NADPH を生成する酵素であった。藍藻のアルカン生合成系は NADPH を消費してアルカンとギ酸を生成することから、ギ酸に関連して NADPH を合成すると考えられる本酵素は、アルカン生合成経路との関わりがある可能性がある。ゲノム中で、この遺伝子の周辺に共通するコンテキストがあるかどうかを種々の藍藻種で調べたところ、すべてにおいて共通するコンテキストはないが、藍藻のグループごとに、類似するコンテクストがある場合があった。培地へのギ酸の添加による遺伝子の発現量の変化を調べたが、現在のところ、対照に比べて明確な違いは見出されていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同定した新規遺伝子について、そのゲノム中でのコンテキストを種々の藍藻種で調べ、また、その遺伝子の発現を調べることができた。当初計画したギ酸に対する応答性の確認が遅れており、遺伝子の発現についてはさらに検討が必要であるが、組換え体の遺伝子産物を調製することができ、NADP+ に対する特異性を試験管内の実験で確認することができた。研究の過程で、従来無菌化に手間がかかるとされていた A. platensis について、迅速に無菌化する手法を開発することができた。これは無菌系統を用いた精密な実験を可能とするものであり、本研究の今後の進展に役立つものと考えられる。これらのことから、本研究を推進するための初年度の研究としてはおおむね順調に進展できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究対象とする遺伝子について、ギ酸に対する応答性の検討をさらに進める。また、本研究で見出された新規NADPH合成酵素について、組換え体を用いた基質依存性の研究を進める。また、遺伝子間のクロストークについても新たに研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子発現の解析にあてる費用が当初の予定よりもやや少なかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、遺伝子発現の解析や遺伝子操作に必要な試薬・酵素類の購入に充てる。
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