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2014 年度 実施状況報告書

脂溶性分子シャペロンとしての高度不飽和脂肪酸含有リン脂質の応用

研究課題

研究課題/領域番号 26660065
研究機関京都大学

研究代表者

川本 純  京都大学, 化学研究所, 助教 (90511238)

研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2017-03-31
キーワード長鎖多価不飽和脂肪酸 / エイコサペンタエン酸 / 特殊環境微生物 / 低温菌
研究実績の概要

エイコサペンタエン酸(EPA)は、二重結合を5つ持つ炭素鎖長 20 の長鎖多価不飽和脂肪酸であり、抗炎症作用や抗腫瘍作用を有する生理活性脂質として知られている。生体においてEPA は主に生体膜を構成するリン脂質のアシル鎖として存在し、周辺の膜タンパク質の機能発現に関与していると予想されている。EPA 含有リン脂質を用いた in vitro 再構築実験の結果、EPA 生産能を有する Shewanella livingstonensis Ac10 の膜タンパク質は、EPA 含有リン脂質存在下でタンパク質の親水的環境から疎水的な膜環境への移行、2次構造形成および高次構造形成が促進されることがわかり、EPA 含有リン脂質は膜タンパク質のシャペロン様機能を担うことが明らかとなった。本菌における EPA 生産能の欠損は細胞分裂不全を生じることから、in vivo では細胞分裂を担う膜タンパク質の構造形成に EPA が関与していることが示唆されている。本菌において EPA は5つの生合成酵素群によって生合成されることがわかっている。本研究では、本菌における細胞分裂に関連する膜タンパク質の機能発現における EPA の生理的役割を解析するために、EPA 生合成酵素群の細胞内局在を解析した。5つの生合成タンパク質をそれぞれ特異的に認識するモノクローナル抗体をラットリンパ節をもちいたハイブリドーマ法で調製し、免疫蛍光染色に供した。細菌における EPA 生合成で足場タンパク質となるアシルキャリアータンパク質ドメインを有する Orf5 は核様体閉鎖領域に局在することがわかった。同様に二重結合の導入と伸長反応を担う Orf7 と Orf8 も同様の局在を示したことから、本菌において EPA は細胞分裂が起こる核様体閉鎖領域において生合成され、分裂関連タンパク質と相互作用していることが示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では、 EPA 含有リン脂質が膜タンパク質の高次構造形成を促進する役割を担うことに基づき、今年度は EPA 生産性細菌における EPA 含有リン脂質の生合成酵素群の細胞内局在を解析することで、EPA 含有リン脂質の局在化と細胞分裂タンパク質との相互作用の存在について明らかにすることを目指した。ラットリンパ節をもちいたハイブリドーマ法で調製したモノクローナル抗体を用い、EPA 生合成酵素群の細胞内局在を可視化した結果、本菌の EPA 生合成は細胞分裂タンパク質が会合する核様体閉鎖領域で局所的に進行することが予想された。以上の結果は、当初計画していた通り、細胞分裂タンパク質と EPA の相互作用を示唆するものであり、本研究は順調に進展していると言える。細菌の細胞分裂は、少なくとも 12 種のタンパク質が会合して形成されるタンパク質複合体が協調して機能することで正常に進行するが、今年度の実験結果から、EPA 含有リン脂質がこれら細胞分裂関連タンパク質群の機能発現に影響することが強く示唆された。一方で、EPA 含有リン脂質と特異的に相互作用する細胞分裂タンパク質や相互作用様式など、EPA 含有リン脂質の生理機能発現における分子基盤の詳細は明らかになっておらず、次年度の課題である。

今後の研究の推進方策

これまでに EPA 含有リン脂質の生理機能発現機構において、EPA 生産菌の核様体閉鎖領域における局所的な生合成が重要である可能性が示されている。一方で、EAP 含有リン脂質が作用する膜タンパク質、とくに細胞分裂関連タンパク質の存在は明らかにされていない。今後は、EPA と局所的に相互作用することで生理機能を正常に発現する膜タンパク質を探索し、その脂質ータンパク質間相互作用様式を明らかにすることで、外来膜タンパク質発現系に EPA 含有リン脂質の分子シャペロン様機能を応用する。EPA 含有リン脂質と相互作用する膜タンパク質の探索には、上記実験で使用した生合成酵素群を特異的に認識するモノクローナル抗体を駆使し、免疫沈降法によって解析する。並行して、架橋性官能基を導入した脂肪酸プローブを合成し、脂質と相互作用するタンパク質を探索する。

次年度使用額が生じた理由

今年度は、EPA 生産性細菌における EPA 生合成酵素群の細胞内局在を可視化することを目的として、生合成酵素それぞれを特異的に認識するモノクローナル抗体を作製した。それぞれの抗体の作製に3ヶ月程度要した結果、いずれの生合成酵素についても細胞内局在を可視化することに成功したが、生合成酵素の局在メカニズムを解析するための遺伝子工学的実験が次年度に繰り越すこととなった。

次年度使用額の使用計画

EPA 生産性細菌における EPA 生合成酵素群の局在化について、遺伝子工学的手法による生合成酵素群局在化メカニズムを試みる。生合成酵素それぞれについて緑色蛍光タンパク質(GFP)融合型タンパク質を発現するプラスミドベクターを構築し、本菌に導入する。形質導入株について EPA 生合成能への影響を評価した後に、蛍光顕微鏡をもちいた蛍光タンパク質の局在を解析する。GFP の上流に挿入する生合成酵素の部位を変えるころで、GFP の局在化に関与する遺伝子領域を明らかにする。次年度に繰り越した使用額については、プライマーの作製やPCR、組換え体の培養と解析に要する遺伝子工学的実験に用いる。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2015 2014

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] Alkyl hydroperoxide reductase enhances the growth of Leuconostoc mesenteroides lactic acid bacteria at low temperatures.2015

    • 著者名/発表者名
      Goto S, Kawamoto J, Sato SB, Iki T, Watanabe I, Kudo K, Esaki N, Kurihara T.
    • 雑誌名

      AMB Express

      巻: in press ページ: in press

    • DOI

      10.1186/s13568-015-0098-3

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Chemical approach to analyze the physiological function of phospholipids with polyunsaturated fatty acyl chain2014

    • 著者名/発表者名
      Kurihara T, Kawamoto J.
    • 雑誌名

      Yakugaku Zasshi.

      巻: 134 ページ: 507-513

  • [学会発表] Eicosapentaenoic acid-containing membraene domain involved in cell divion of a cold-adapted bacterium2015

    • 著者名/発表者名
      KAWAMOTO Jun, KURIHARA Tatsuo
    • 学会等名
      Biophysical Society 2015
    • 発表場所
      Baltimore, USA
    • 年月日
      2015-02-10 – 2015-02-10
  • [学会発表] 低温菌 Shewanella livingstonensis Ac10 におけるエイコサペンタエン酸含有マイクロドメインの形成2014

    • 著者名/発表者名
      川本 純
    • 学会等名
      特殊環境微生物セミナー2014
    • 発表場所
      名古屋
    • 年月日
      2014-10-01 – 2014-10-01

URL: 

公開日: 2016-05-27  

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