研究課題
超好熱アーキアや一部の超好熱細菌においてイノシトール類であるジ-myo-イノシトール1,1’-リン酸がソリュートとして機能している例が報告されている(Chen, L. et al., J. Bacteriol. 180(15):3785-3792, 1998)。実際、アルファルファ根粒菌Sinorhizobium melilotiにおいてmyo-イノシトールリン酸合成酵素をコードするino1は塩ストレスで誘導されることが既に判明しており、生育温度の低い根粒菌においてもイノシトールが生産変換されてソリュートとして機能する可能性はある。但し、グルタミン酸、N-アセチルグルタニミニルグルタミンアミド、ベタイン、トレハロースなどの他のソリュートが存在する場合は、その効果がマスクされてしまう可能性があるので、他者を排除した実験系を組む必要がある。そこでH26年度は、S. melilotiにおいてino1およびN-アセチルグルタニミニルグルタミンアミドの遺伝子群、ベタイン合成系の遺伝子群、トレハロース合成系の遺伝子群など複数を組み合わせた多重変異を導入した。さらに加えて、イノシトール分解系の遺伝子の破壊も行い、一連の変異株シリーズをそろえることに成功した。それら変異菌株の耐塩性、耐浸透圧性の差異の検出を試みたが、ino1の有無による明確な耐性変化は見られなかった。しかし、イノシトール分解系を破壊するとイノシトールの存在下において若干の耐塩性の向上が観察されたことから、やはりイノシトール代謝が耐塩性獲得に何らかの関与を担うことは示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
根粒菌の遺伝子破壊に際しては、一般に用いられる相同組み換えによるマーカー置換法ではなく、染色体内の組み換えによる特定遺伝子領域の欠失によって実施した。この方法はベクターの染色体への組み込みと、それに続く欠失組み換えの2段階を必要とする。これらの方法自体の技術は完全に確立されてはいるものの相当の時間を要することは避けられず、予定される変異体を全て網羅するためにほぼ年度大半の期間を要したが、もともとH27年度に入ってからという予定であった変異株の耐塩性評価についても一定の成果を上げることができており、この観点から計画を前倒しで進めることができたと考える。
残念ながらino1破壊の効果は明確には見いだされなかったので、当初は計画していなかったことであるがH27年度は逆に同遺伝子の過剰発現を検討する。一方、根粒菌の特徴は宿主植物に根粒を形成し窒素固定を行うことである。ついては、上記の遺伝子破壊株をアルファルファに感染させて試験を行う。植物の栽培は人工気象機内で行い、窒素固定能力を簡便に評価するために窒素源を含まない栽培条件で野生株感染と植物の成長を比較する。また、一定期間の感染栽培の後に根粒形成の頻度と規模も比較する。場合によっては、lacZ遺伝子等マーカー遺伝子を導入したコントロール株との競合感染実験も行い、感染力自体の変化も評価する。以上の実施については、本菌のストレス応答研究の国際的専門家であるフランス農業研究所トゥールーズのClaude Bruand博士を研究協力者として共同で研究を進める。当該遺伝子の破壊あるいは過剰発現株の細胞内部および培地に含まれるイノシトールおよびその誘導体の検出を試みる。万一正体不明の物質が現れた場合は、安定同位体または放射性同位体によって標識したグルコースやイノシトールを用いてトレーサー実験を試みることも視野に入れる。さらに平成27年度後半には成果を取りまとめる。研究協力者とのディスカッションを通して客観的な評価を得ると共に、不足しているデータなどを補うための実験を充実させる。そして、総合的な評価判断のもと本研究の成果を総括し今後の展開方針を立てる。
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BMC Microbiol
巻: 15 ページ: 43
10.1186/s12866-015-0373-0